甲乙間において、甲手持のわさび粉につき昭和二六年の年末が一応買取の最終履行期と定められたが、甲はわさび粉の変質をおそれて同年八月から同年九月にかけ再三書面または口頭で買取方を申し入れ、乙としてもわさび粉が変質し易いことを熟知していた等、原判示のような事情(当審判決理由参照)があるときは、同年年末以前に変質した右わさび粉の発棄により甲の蒙つた損害は、乙においてその賠償の責任を免れない。
わさび粉の買取期限前にわさび粉が変質した場合において、売主の買主に対する右変質を理由とする損害賠償請求が認められた事例。
民法709条
判旨
和解契約に基づき目的物を買い取る義務を負う者が、目的物の変質しやすさを熟知し、相手方から再三の買取申し入れを受けながら放置した場合は、最終的な履行期前であっても、目的物の変質・廃棄による損害について債務不履行責任を負う。
問題の所在(論点)
和解契約に基づく売買契約締結義務の不履行の成否、および最終履行期(年末)以前に発生した目的物の変質による損害について賠償責任を負うか。
規範
契約当事者が、目的物の性質(変質の容易性等)を熟知し、かつ履行期までに決済を行う必要性を認識している状況下では、相手方からの履行の催告に対し、信義則上、速やかにこれに応じるか、遅滞の理由を通知すべき義務を負う。この義務に違反し、目的物が変質して財産的価値を失わせた場合には、当初定められた最終履行期の到来前であっても、当該義務違反と相当因果関係にある損害について賠償責任を負う。
重要事実
上告人と被上告人は、手形割引金の未払分(600万円)の決済のため、被上告人所有のわさび粉を上告人が順次買い取り、その代金と相殺する旨の和解契約を締結した。最終履行期は同年年末とされたが、わさび粉は年内に処分せねば変質する性質を有し、双方はこれを熟知していた。被上告人は8月から9月にかけ再三買取を申し入れたが、上告人は回答せず放置した。その結果、11月には変質が始まり、12月には全量(5000貫余)を廃棄せざるを得なくなった。被上告人は、上告人に対し債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
上告人は、わさび粉の変質しやすさを熟知し、かつ早期決済の必要性を認識していた。被上告人からの再三の買取申し入れに対し、上告人は契約の趣旨に従い、速やかに買い取るか、買取不能の理由を通知すべき義務を負っていたといえる。しかし、上告人はこれを漫然と放置した。この放置行為は、和解契約上の義務不履行に該当する。わさび粉の変質・廃棄は、上告人が速やかに義務を履行していれば回避できたものであり、不履行と相当因果関係がある。したがって、最終履行期たる年末の前であっても、上告人は損害賠償責任を免れない。
結論
上告人は、和解契約に基づく買取義務の不履行により、わさび粉の廃棄相当額について損害賠償責任を負う。
実務上の射程
契約上の履行期が猶予されている場合であっても、目的物の性質や当事者の認識、信義則上の付随的義務(通知義務等)に基づき、履行期前の不作為が債務不履行を構成し得ることを示す事例である。損害額算定時期について「最終履行期と廃棄時期が近接し、価格変動がない特段の事情」がある場合に、廃棄時の価格を基準とすることも認めている。
事件番号: 昭和31(オ)758 / 裁判年月日: 昭和32年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商人間の売買において、目的物の種類、品質又は数量に関する契約不適合を理由とする代金減額請求や損害賠償請求を行うには、商法526条所定の通知をなすことが必要不可欠である。 第1 事案の概要:買主(上告人)は卸売市場において、売主(被上告人)からアジ及びサバを買い取った。その際、買主は取引現場で魚の鮮…