売買契約において同時履行の関係を排すべき特段の事情が認められない場合、買主が代金の提供をして売主を遅滞に付した点の主張立証がなされないままに、ただ売主が約定の履行期を徒過延引し売渡物件の引渡をなさないことのみにより卒然その履行遅滞をいい、よつて売主に損害賠償義務ありと判断するのは、理由不備の違法あるものといわねばならない。
売主の履行遅滞につき理由不備ありとされた事例
民法412条,民法533条,民訴法395条1項6号
判旨
双務契約において債務不履行(履行遅滞)に基づく損害賠償責任を追及する場合、特段の事情がない限り、債権者は自己の債務の履行を提供して債務者の同時履行の抗弁権を消失させる必要がある。
問題の所在(論点)
双務契約において、相手方の履行遅滞に基づく損害賠償請求を認めるにあたり、自己の債務の履行の提供(同時履行の抗弁権を消失させること)の主張・立証が必要か。また、単なる履行期の徒過のみで履行遅滞が成立するか。
規範
双務契約の当事者の一方が相手方に対して履行遅滞に基づく損害賠償を請求するためには、同時履行の抗弁権(民法533条)を失わせる必要がある。したがって、同時履行の関係を排除すべき特段の事情がない限り、請求者は自己の債務につき履行の提供(民法493条)をしたことを主張・立証しなければならない。
重要事実
売主(上告人)と買主(被上告人)との間で、紡毛ジャージ50反の売買契約が締結された。売主が約定の履行期を過ぎても商品の引渡しを行わなかったため、買主は履行遅滞による損害賠償債権を自働債権として、売主の代金請求権との相殺を主張した。原審は、売主が履行期を徒過した事実のみをもって履行遅滞の成立を認め、相殺を認容した。
あてはめ
本件売買契約は双務契約であり、特段の合意がない限り、商品の引渡しと代金の支払いは同時履行の関係にある。本件では、同時履行の関係を排すべき特段の事実は認定されていない。にもかかわらず、買主から「履行の提供」があった事実の主張立証がなされていない段階で、単に売主が履行期を徒過し引渡しを行っていないという事実のみから直ちに履行遅滞の成立を認めることは、民法533条および履行遅滞の要件に関する法解釈を誤ったものといえる。
結論
双務契約において履行の提供がなされない限り、履行期の徒過のみでは履行遅滞とはならず、損害賠償請求権も発生しない。したがって、相殺の自働債権としてこれを認めることはできない。
実務上の射程
履行遅滞に基づく解除や損害賠償を論じる際、対象が双務契約であれば、412条の要件に加えて、必ず533条との関係(履行の提供の有無)を検討すべきであることを示す射程の広い判例。答案では「同時履行の抗弁権の存在自体が履行遅滞の成立を妨げる(存在効果説)」との結びつきで言及されることが多い。
事件番号: 昭和30(オ)999 / 裁判年月日: 昭和32年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商法525条(現525条1項)が規定する商事定期行為の解除が認められるためには、当該取引が客観的に、あるいは当事者の意思表示によって、特定の時期に履行しなければ契約の目的を達し得ない性質を有している必要がある。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)との間の代金支払を伴う取引において、…