当事者の主張事実の輪郭内において当事者の主張しない詳細な事実を認定することは、裁判所の自由に属する。
当事者の主張しない詳細な事実を認定することの可否。
民訴法185条
判旨
代理権が制限された後も、過去の取引実績や調査結果に基づき、相手方が代理権の存在を信ずべき正当な理由がある場合には、表見代理の成立が認められる。また、裁判所は当事者の主張した事実の範囲内であれば、証拠に基づき詳細な事実を認定できる。
問題の所在(論点)
代理権の制限を秘して行われた代理行為について、相手方がその権限があると信ずべき「正当な理由」(民法110条)が認められるか。また、主張事実の範囲を超えた事実認定の可否(弁論主義の限界)が問題となる。
規範
民法110条の適用において、相手方が代理権を有すると信ずべき「正当な理由」の存否は、過去の取引態様、本人の内部的な権限変更の有無、及び相手方による事前の信用・権限調査の内容等の諸事情を総合して判断される。
重要事実
上告会社D出張所長Eは、従前、製品販売や代金受領の権限を委ねられており、被上告人との間でも過去に複数回、事故なく金銭貸借や手形割引の取引を行っていた。その後、会社はEの代金領収権限を除外したが、Eはこれを秘してD出張所名義の委任状を偽造・利用し、被上告人から50万円を借り入れ、本件約束手形を裏書譲渡した。被上告人は過去の取引時に名古屋市交通局へEの権限を照会し、代金受領権限がある旨の回答を得ていた。
あてはめ
被上告人は昭和29年以来、Eとの間で手形取引や貸付けを行っており、それらが滞りなく決済されていた実績がある。また、被上告人は過去の貸与の際、発注元である名古屋市交通局に対しEの権限を調査し、代金受領権限があるとの回答を得ていた。このような経緯から、被上告人がEに本件取引の代理権があると信じたことは、権限変更を知らされていない以上、客観的に正当な理由があるといえる。また、裁判所が認定した事実は当事者の主張の「輪郭内」に留まる詳細な事実であり、弁論主義には反しない。
結論
被上告人には代理権があると信ずべき正当な理由が認められ、本件裏書譲渡等は表見代理として有効である。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
権限外の行為における「正当な理由」の立証において、過去の無事な取引実績や外部機関への調査事実が強力な基礎づけとなることを示す。また、弁論主義における「主張」の程度について、主要事実の枠内であれば細部の認定は裁判所の自由心証に委ねられるという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)369 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の代理権(基本代理権)を有する者が、その権限を越えて代理行為をした場合において、相手方がその代理権があると信ずべき正当な理由があるときは、民法110条の権限外の行為の表見代理が成立する。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dは、被上告組合からの立替金名義による金員の借入れおよび同組合に対する預金…