判旨
代理人が権限なく作成した別個の約束手形と引き換えに、債権者が当初の担保手形を返還したとしても、その事情を債権者が知らなかった場合には、特段の事情がない限り貸金債務の完済を推認することはできない。
問題の所在(論点)
担保として差し入れられた約束手形が債務者に返還されたという事実をもって、民法473条(弁済)による貸金債務の完済を推認することができるか。
規範
金銭消費貸借契約に伴い担保として差し入れられた手形が債権者から返還された場合であっても、その返還が債務の完済(弁済)を原因とするものではなく、代理人の不正な働きかけや権限外の行為に基づいて行われた場合には、債務の消滅を推認することは妨げられる。
重要事実
被上告人は、上告人の代理人である支店次長Dに対し130万円を貸し付け、その担保として上告人の支店長振出に係る140万円の約束手形を受け取った。その後Dは、権限がないにもかかわらず別の約束手形(85万円)を偽造。Dは被上告人に対し、「支店長が交代するので当初の手形を返還してほしい、代わりに新しい手形を持参する」と嘘の請求を行い、その事情を知らない被上告人から140万円の担保手形の返還を受けた。
あてはめ
本件において、担保手形の返還は債務の完済に基づくものではなく、Dによる虚偽の請求と権限外の手形作成という不正な手段によって行われたものである。被上告人はDに権限がないこと等の事情を知らずに返還に応じている。このような主観的・客観的状況下では、手形の返還という事実から直ちに貸金債務が完済されたという事実を推認することは論理上不可能である。
結論
担保手形の返還があっても本件貸金債務の完済は認められず、上告人は依然として貸金返還義務を負う。
実務上の射程
弁済の事実認定における事実上の推定に関する判例である。通常、証書や担保の返還は弁済を推認させる有力な間接事実となるが、その返還が詐称や無権限行為に基づく場合には、その推定力が否定されることを示す。答案上は、弁済の抗弁に対する再抗弁(あるいは事実認定の局面)において、返還の経緯を具体的に検討する際の準拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)96 / 裁判年月日: 昭和35年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白は、それが錯誤に基づき、かつ真実に反する場合に限り、相手方の同意がなくても撤回することができる。 第1 事案の概要:上告人(被告)が、訴訟過程において残債務の存在を認める趣旨の陳述(自白)を行った。しかし、後に上告人は、当該自白は錯誤に基づくものであるとして、相手方の同意を得ることなく…