判旨
裁判上の自白は、それが錯誤に基づき、かつ真実に反する場合に限り、相手方の同意がなくても撤回することができる。
問題の所在(論点)
民事訴訟法上の裁判上の自白について、相手方の同意がない場合に、いかなる要件を満たせば一方的に撤回することが可能か。
規範
裁判上の自白が成立した場合、当事者は原則としてこれを撤回できない(自白の不可撤回性)。もっとも、①自白が真実に反すること、および②自白が錯誤に基づいたものであることの双方が証明された場合には、相手方の同意なくして自白を撤回することができる。また、相手方の同意がある場合や、自白の対象が刑事上罰すべき他人の行為によってなされた場合も撤回が認められる。
重要事実
上告人(被告)が、訴訟過程において残債務の存在を認める趣旨の陳述(自白)を行った。しかし、後に上告人は、当該自白は錯誤に基づくものであるとして、相手方の同意を得ることなくその撤回を主張した。これに対し、相手方(被上告人)は撤回に異議を述べ、自白の拘束力を争った。原審は、残債務が存在しないことを認めるに足りる証拠(自白が真実に反することを裏付ける証拠)がないとして、自白の撤回を認めなかった。これを不服として上告人が上告した事案である。
あてはめ
本件において、上告人が行った自白を撤回するためには、判例の確立した枠組みに従い、当該自白が錯誤に基づき、かつ真実に反することを証明しなければならない。しかし、原審の認定によれば、残債務が存在しない(=自白内容が真実に反する)ことを認め得る証拠が提出されていない。したがって、自白の撤回を認めるための要件のうち「真実に反すること」の証明が欠けているといえる。相手方が撤回に異議を述べている以上、要件を満たさない撤回は効力を生じない。
結論
自白が真実に反することの証明がないため、自白の撤回は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の撤回要件として「真実に反すること」と「錯誤」の二重の要件を求める実務上の定石を示した判例である。答案上は、まず弁論主義の第2テーゼから自白の拘束力を指摘した上で、例外的な撤回要件として本規範を提示する。事実認定のレベルでは、自白が真実に反することが証明されれば錯誤は事実上推定されるとする運用(反真実の証明による錯誤の推定)に留意して論じるのが一般的である。
事件番号: 昭和33(オ)267 / 裁判年月日: 昭和36年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白を撤回するには、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくことが必要であるが、自白が真実に反することの証明があるときは、特段の事情のない限り、錯誤に基づくものと推定される。 第1 事案の概要:被上告人は、第一審の口頭弁論期日において、法律に疎い素人本人として不利な事実の自白を行った。その後、…