判旨
裁判上の自白を撤回するには、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくことが必要であるが、自白が真実に反することの証明があるときは、特段の事情のない限り、錯誤に基づくものと推定される。
問題の所在(論点)
裁判上の自白の撤回において、「錯誤」によるものであることをどのように立証すべきか。特に、自白が「真実に反すること」の証明があれば「錯誤」が推定されるか。
規範
裁判上の自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいたものであることを要する。ただし、自白が真実に反することの証明がある場合には、特段の事情がない限り、右自白は錯誤に出たものと認めることができる(錯誤の推定)。
重要事実
被上告人は、第一審の口頭弁論期日において、法律に疎い素人本人として不利な事実の自白を行った。その後、第一審の続行期日において、被上告人の訴訟代理人(弁護士)が当該自白を撤回した。原審は、証拠に基づき、自白された事実が真実に反することを認定し、かつ、本件において特段の事情は認められないとして錯誤を推認した。
あてはめ
本件において、被上告人の自白内容が真実に反することは各証拠によって肯定されている。そして、自白を行った被上告人が法律に疎い素人本人であったこと、その撤回が後に選任された弁護士によってなされていること等の経緯に照らせば、真実に反する自白をあえて行う合理的な理由は見当たらない。したがって、他に錯誤の推認を妨げるべき特段の事情が認められない以上、真実に反する証明をもって、当該自白は錯誤に基づくものと推認するのが相当である。
結論
自白内容が真実に反することの証明があるときは、原則として錯誤が推定されるため、本件自白の撤回は有効である。
実務上の射程
自白の撤回要件のうち「錯誤」の立証負担を軽減する重要な判例である。答案上は、まず自白の法的拘束力を論じた上で、撤回の可否について本規範を提示する。「真実に反すること」を証拠等から事実認定した後、本判例を引用して錯誤を推定し、反証の有無を検討する流れで用いる。
事件番号: 昭和37(オ)30 / 裁判年月日: 昭和38年5月30日 / 結論: 棄却
(省略)