一 賃料額が具体的に決まらなくても、後日協定すべき相当賃料を支払う旨の合意があれば、賃貸借は有効に成立する。 二 家屋台帳の記載の誤りに基因し、所有権保存登記の建物所在表示が現実の地番と異つて記載されていても、原判決認定の事情(原判決の引用する第一審判決理由参照)から、社会通念上右番地の記載によつて当該建物を表示するにつき同一性を認識できる場合には、右建物保存登記は、現実の敷地の賃貸借につき建物保護法第一条第一項に規定する建物の登記としての効力を有する。
一 賃料額の合意と賃貸借の成立 二 建物所在の地番表示を誤つた所有権保存登記に建物保護法上の登記の効力があるとされた事例
民法601条,建物保護に関する法律1条1項
判旨
賃貸借契約の成立において、賃料が具体的に合意されていなくても、賃料額を客観的に確定し得る基準につき合意があれば、契約は有効に成立する。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の成立において、賃料額が具体的に合意されている必要があるか(賃料の確定性の程度)。
規範
民法601条の「賃料」は契約の要素であるが、契約締結時に具体的な金額が確定していることまでを要しない。賃料額を客観的に確定し得る基準につき当事者間で合意があれば、賃貸借契約は有効に成立すると解すべきである。
重要事実
Dらは昭和23年3月頃、建物所有を目的として本件土地を期間の定めなく貸与した。その際、具体的な賃料額については合意に至っていなかったが、客観的に確定し得べき相当賃料額をもって賃貸するとの意思を有していた。上告人は、賃料が具体的に決定されていない以上、賃貸借契約は成立しないと主張して争った。
事件番号: 昭和36(オ)1234 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
賃貸借契約の成立が抗弁とされている場合に、右契約締結に至る事情は、当事者の主張がなければ認定判示が許されないものではない。
あてはめ
本件において、Dらは建物所有目的で土地を貸与しており、賃料を具体的には協定していなかった。しかし、賃料を支払う意思自体は存在し、かつ「相当賃料額」という客観的に確定し得る基準が存在していたといえる。したがって、具体的な金額の合意がなくとも、賃料額を客観的に決定できる基準についての合意があるものと認められ、賃貸借の成立要件を充足する。
結論
賃料が具体的に決まっていなくても、客観的確定基準の合意があれば賃貸借契約は有効に成立する。
実務上の射程
契約成立の成否が争われる場面で、要素たる賃料の確定性を柔軟に解釈する際の根拠となる。ただし、基準すら不明確な場合や無償の意図がある場合は使用貸借(593条)となるため、あくまで「相当額を支払う」という基準の合意を事実認定で拾う必要がある。
事件番号: 昭和33(オ)1114 / 裁判年月日: 昭和35年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法541条(改正前も同様)所定の催告は、債権者が履行を求める債務の内容を債務者に知らしめる程度のものであれば足り、給付の目的が金銭である場合でも、必ずしもその金額を明示することを要しない。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、地代の支払を催告するに際し、「各統制額に値上…
事件番号: 昭和34(オ)920 / 裁判年月日: 昭和35年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除後に生じた不当利得ないし損害賠償としての賃料相当額の算定において、当事者間に争いのない約定賃料額を基準とすることは適法であり、上告審で初めて主張された統制額等の考慮を欠いたとしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が解除さ…
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和24(オ)174 / 裁判年月日: 昭和25年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】給付判決における目的物の表示が簡略であっても、現場に臨むことで対象範囲を判別でき、強制執行等に支障がない程度に特定されていれば、給付の範囲が確定していないとはいえない。 第1 事案の概要:土地所有者である被上告人らが、隣接する各自の所有地(イ地及びロ地)上に家屋を所有して占有する上告人らに対し、建…