借家法第一条ノ二の正当の事由は、解約申入当時における賃貸人、賃貸人双方に存する事情を比較考量して、決定すべきものである。
借家法第一条ノ二の正当事由の存否を判断する時期。
借家法1条ノ2
判旨
建物の賃貸借における解約申入れの「正当事由」の存否は、解約申入れ当時の賃貸人・賃借人双方に存する事情を比較考量して決定すべきである。そのため、解約申入れから数年後の事情を判断の基礎とすることは許されない。
問題の所在(論点)
借家法1条の2(現行28条)に基づく解約申入れの正当事由の有無を判断する基準時はいつか。解約申入れより数年後の事情を判断の基礎にできるか。
規範
期間の定めのない建物賃貸借の解約申入れに必要とされる「正当の事由」(借家法1条の2、現行借地借家法28条参照)の有無は、解約申入れ当時における賃貸人及び賃借人双方に存する諸事情を比較考量して決定すべきである。
重要事実
賃貸人(上告人)は、賃借人(被上告人)に対し、昭和25年6月3日の訴状送達をもって建物賃貸借の解約申入れを行った。原審は、当該建物が隣接する映画館の休憩所や事務室、医療室等として使用されており、明渡しの困難性があることを正当事由の判断材料としたが、その中には、解約申入れから約6年後(昭和31年10月)の検証時点で判明した事情、すなわち映画館の廃止や理髪室への改装、労働組合事務室への転用といった事実が含まれていた。
あてはめ
原審は、正当事由の存否を判断するにあたり、解約申入れ時点(昭和25年6月)の状況とは異なる、約6年有余も後の事情(昭和31年時点の建物の利用実態)を斟酌している。しかし、正当事由の有無はあくまで「解約申入れ当時」の双方の事情を比較考量すべきものである。したがって、解約申入れ後の事情を主要な判断材料とした原審の判断は、法令の解釈を誤ったものといえる。
結論
解約申入れから約6年後の事情を正当事由の判断資料とした原判決には法令違背があるため、これを破棄し、差し戻す。
実務上の射程
解約申入れの正当事由は「申入れ時」の事情で判断されるという基準時を明確にした。ただし、その後の事情が全く考慮されないわけではなく、更新拒絶等の効力発生(期間満了時)までの事情の変化が補充的に考慮される余地はあるが、本判決のように数年も後の事情を主たる根拠とすることは許されない点に留意すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)1166 / 裁判年月日: 昭和37年11月6日 / 結論: 棄却
家屋賃貸人が病父の医療費および家族の生活費捻出のため、当該家屋を倉庫として利用し飼料商を始めなければならない等の事情ならびに賃借人の利用事情などの事実関係のもとでは賃貸人の解約申入に正当事由がある。