判旨
賃借人の「なるべく早く明渡す」との回答は、即時の解約合意を意味するとは限らず、転居先が見つかり次第終了させる趣旨に留まる場合がある。また、正当事由の存否は、双方の建物の必要性を比較衡量して判断される。
問題の所在(論点)
1. 賃借人の「なるべく早く明渡す」との回答によって、賃貸借の即時解約合意が成立したといえるか。 2. 賃貸借の解約申入れに「正当事由」が認められるか。
規範
建物賃貸借の合意解約が成立したといえるためには、解約を申し入れる意思表示に対し、相手方が即時に賃貸借を終了させる確定的な承諾の意思表示を行うことを要する。また、解約申入れによる終了には、借地借家法(旧借家法)上の「正当事由」が必要であり、その存否は賃貸人および賃借人の双方が当該建物を必要とする事情を総合的に比較衡量して決すべきである。
重要事実
建物を買い受けた上告人(賃貸人)は、被上告人(賃借人)に対し、明け渡しを求めた。これに対し被上告人は「なるべく早く明渡す」旨を回答したが、その後、転居先がないことを理由にたびたび明渡請求に応じなかった。上告人は、昭和19年3月28日時点で賃貸借の解約合意が成立したと主張し、仮に成立していないとしても解約申入れに正当事由があるとして明け渡しを求めた。
あてはめ
1. 被上告人の「なるべく早く明渡す」という回答は、移転先が見つかり次第終了させることに異議がないという趣旨を含むに留まり、直ちに賃貸借を即時終了させる確定的な合意があったとは必ずしもいえない。本件の事実関係下では、その後の拒絶の経緯も踏まえ、即時解約の合意成立を否定した原審の判断は相当である。 2. 建物の使用を必要とする程度を比較すると、上告人(賃貸人)よりも被上告人(賃借人)において強度であると認められる。したがって、双方の必要性を比較衡量すれば、上告人側の解約申入れに正当な事由があるとは認められない。
結論
賃借人の回答は即時の解約合意とは認められず、また、賃借人の居住の必要性が賃貸人の必要性を上回る本件では、解約の正当事由も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
賃借人の明け渡しに応じるような言動があっても、それが即時の終了を意味するか、条件付き(転居先確保後)の意向に過ぎないかは慎重に区別すべきである。また、正当事由の判断においては、双方の具体的必要性を比較衡量するという基本枠組みを確認している。答案上は、合意解約の成否と正当事由の有無という二段構えの構成で検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和35(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和37年6月8日 / 結論: 棄却
正当事由に基づく家屋受渡請求事件において、被告(賃借人)先代が賃料につき提供も供託もしていないことをもつて、他人の家屋を使用する者として信義に反する旨の主張が原告(賃貸人)によつてなされ、被告が右事実を認めたが、右賃料についてはその後被告はこれを供託した旨陳述し、これに対し原告がその点を争わないと述べているときは、原告…