一 約束手形金請求訴訟において、原告が当初第一審で手形の受取人がDこと甲と主張したが、第二審で右主張を撤回し新たに受取人はDこと乙と主張した場合には、被告が右新主張を認めるとともに、裏書の連続を欠くから適法の所持人とみなすことができないとの抗弁を提出したとしても、右抗弁は時機に遅れて提出されたものとはいえない。 二 右訴訟において、手形に受取人として表示されているDが甲の商号であり、右手形を裏書した者が甲の使用人であつて、手形の記載上受取人と裏書人とが同一性を欠くことが明白である場合に、乙が甲の代理人として裏書したものであることについてなんら主張、立証の形跡がないときには、乙が甲の代理人として裏書したものかどうかを釈明する必要はない。
一 抗弁の提出が時機に遅れた防禦方法ではないとされた事例 二 釈明義務に懈怠はないとされた事例
民訴法139条,民訴法127条
判旨
当事者が新たな主張を展開し、相手方がそれを認めた上で抗弁を提出した場合、その自白が従前の自白と抵触しても、自白の撤回には当たらない。
問題の所在(論点)
当事者が主張を変更し、相手方がこれに同調する自白を行った場合において、当該自白が従前の自白と異なることが「自白の撤回」として禁止されるか。また、受取人と裏書人の同一性が不明な場合の釈明義務の範囲が問題となる。
規範
当事者が訴訟の進行過程で主張を変更し、相手方がその新たな主張を認める(自白する)とともに、それに基づく法的効果(抗弁等)を主張した場合、当該自白が前審等の従前の自白と抵触するものであっても、信義則上の制約や撤回の禁止には抵触せず、適法な主張の変遷として許容される。
重要事実
上告人(原告)は当初、本件手形の受取人をEであると主張していたが、控訴審において受取人はFであると主張を撤回・変更した。これに対し、被上告人(被告)はこの新たな主張を認め(自白)、その上で、受取人(F)と裏書人(E)が異なるため裏書の連続を欠くとの抗弁を提出した。上告人は、この被上告人の行為が第一審での自白と抵触し、自白の撤回にあたり違法であると主張した。
あてはめ
被上告人は上告人が原審で新たに行った「受取人はFである」との主張を認めている。これは上告人自身の主張の変更に伴うものであり、被上告人が一方的に従前の自白を撤回したものではない。また、裏書人Eが受取人Fの代理人として裏書したとの主張・立証がない以上、手形上の記載から同一性の欠如は明らかであり、裁判所がそれ以上の釈明を行う必要はない。
結論
被上告人の自白は撤回に当たらず、時機に後れた攻撃防御方法ともいえない。また釈明権の不行使も認められず、裏書の連続を欠くとした原審の判断は正当である。
実務上の射程
当事者双方が合意的に事実認識を修正した場合の自白の処理について、撤回制限の法理が妥当しないことを示している。答案上は、主張の変遷に伴う自白の有効性や、裏書の連続(手形法16条1項)における実質的連続の主張立証責任の所在を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和29(オ)651 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、自白した事実が真実に反することの証明があるときは、特段の事情がない限り、錯誤に出たものと推定して認めることができる。 第1 事案の概要:本件訴訟において、被上告人が行った自白について、後にこれが真実に反するものであるとして撤回の可否が争点となった。原審(第2審)は、提出された…