売買代金の支払を求める訴において、被告がまず売買契約を否認し、予備的に代金支払ずみの主張をした場合において、第一審が被告の右第一次の主張を排斥し、予備的主張を採用して被告勝訴の判決をした場合、これに対する原告の控訴の申立に基づき、第二審が第一審で排斥された第一次の主張を採用して控訴棄却の判決をしても、原審が原告主張の債権の有無について審判したことには変りはないから、原審が原告の控訴しない事項について、第一審判決を変更したものということはできない。
控訴審における判決理由の変更と民訴法第三八五条
民訴法377条,民訴法385条
判旨
複数の防御方法がある場合でも、訴えが一個であれば、原審が第一審と異なる理由(防御方法の採否)に基づき請求を棄却しても、控訴していない事項について判決を変更したことにはならない。
問題の所在(論点)
第一審が被告の予備的抗弁を認めて請求を棄却した場合において、控訴審が第一審の判断した抗弁には触れず、被告の主位的防御方法(請求原因の否認)を認めて控訴を棄却することが、不利益変更禁止の原則(民事訴訟法304条)に抵触するか。
規範
被告が複数の防御方法(抗弁)を提出している場合であっても、訴訟物は一個である。第一審判決が特定の抗弁を理由に請求を棄却し、控訴審が別の抗弁(請求原因事実の不発生等)を理由に請求を棄却したとしても、それは上告人(原告)が主張する同一の債権の存否について審判したことに他ならず、不利益変更禁止の原則に抵触するものではない。
重要事実
上告人(原告)は、債務者Dから被上告人(被告)に対する浴場代金債権を差し押さえ転付命令を得たと主張し、被上告人に支払いを求めた。被上告人は、①自身は買主ではない、②仮に買主でも代金は支払済みである、と争った。第一審は、②の弁済による消滅を認めて請求を棄却した。これに対し上告人が控訴したところ、原審(控訴審)は、①の「被告は買主ではない」ことを理由に請求を棄却し、上告人の控訴を棄却した。上告人は、原審が第一審で判断されなかった事項(①)に基づき判決を出したことは、控訴していない事項についての変更にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件における被上告人の主張(買主ではないこと、および弁済済みであること)は、いずれも上告人の請求を排斥するための「防御方法」の複数提示にすぎず、訴訟物たる代金支払請求権は一個である。第一審が「弁済」を理由に請求を棄却し、原審が「売買契約の主体ではないこと」を理由に請求を棄却したが、いずれも上告人が主張する債権の存否を審理した結果である。したがって、原審が第一審と異なる理由で控訴を棄却しても、控訴の限度を超えて判決を変更したとはいえない。
結論
原審が第一審と異なる理由により請求を排斥しても、同一の訴訟物に関する審判である以上、不利益変更禁止の原則には反しない。上告棄却。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則との関係で、理由の差し替えが許容される範囲を示す。被告が複数の防御方法を提出している場合、控訴審が第一審と異なる防御方法を採用して請求棄却(控訴棄却)の結論を維持することは、不服申立ての範囲内での判断であり適法となる。
事件番号: 昭和54(オ)1134 / 裁判年月日: 昭和55年5月12日 / 結論: 棄却
一 支払銀行に対し、手形の不渡異議申立手続を委託した手形債務者から異議申立提供金に見合う資金として支払銀行に交付された預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することが、預託金返還請求権の性質上制限されるものと解すべき理由はな…