一 賭博の用に供されることを知つてする金銭の消費貸借契約は、公序良俗に違反し無効である。 二 原告の訴求債権の存在を認めながら被告の相殺の抗弁を容れ原告の請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしなかつた場合において、控訴審が、被告の相殺の抗弁について判断するまでもなく、訴求債権の不存在を理由に原告の請求を棄却すべきときは、不利益変更禁止の原則に従い、第一審判決を維持して、原告の控訴を棄却するにとどめなければならない。
一 賭博の用に供されることを知つてする金銭の消費貸借契約と公序良俗違反 二 相殺の抗弁を容れて原告の請求を棄却した第一審判決に対し原告のみが控訴した場合と不利益変更禁止の原則
民法90条,民訴法199条2項,民訴法384条,民訴法385条,民訴法386条
判旨
相殺の抗弁を認めて請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴した場合において、控訴審が訴求債権の不発生を認めたときは、第一審判決を取り消して請求棄却の判決をすることは不利益変更禁止の原則に反するため、原告の控訴を棄却すべきである。
問題の所在(論点)
相殺の抗弁が認められて請求棄却となった第一審判決に対し、原告のみが控訴した場合において、控訴審が訴求債権自体の不存在(無効)を認めたときに、第一審判決を取り消して請求棄却の判決をすることが、不利益変更禁止の原則(民事訴訟法304条)に抵触するか。
規範
訴求債権の成立を認めつつ被告の相殺の抗弁を採用して請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしていない場合、控訴審が訴求債権自体の不発生(無効)を認めたとしても、第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは、民事訴訟法304条(旧199条2項)の不利益変更禁止の原則に照らし許されない。この場合、控訴審は第一審判決を維持し、原告の控訴を棄却すべきである。
重要事実
債権者(原告)が債務者(被告)に対し、金銭消費貸借契約に基づく貸金返還を求めて提訴した。一審は、当該貸金債権の成立を認めた上で、被告の相殺の抗弁を認め、請求を棄却した。原告のみがこれを不服として控訴し、被告は控訴・附帯控訴を行わなかった。二審は、当該契約が賭博資金の貸付けであり公序良俗(民法90条)に反し無効であると判断したが、一審と同様に請求を認容しなかった。
あてはめ
一審で相殺が認められた場合、判決の理由中で示された自働債権の存在について既判力が生じる(民訴法114条2項)。これに対し、債権自体が不成立として請求棄却となる判決は、被告にとって自働債権を失わずに済むという利益がある反面、原告にとっては自働債権を相殺によって消費させることができた一審の状態よりも、実質的に不利益な地位に置かれることになる。したがって、原告のみが控訴している本件において、債権無効を理由に一審判決を取り消すことは不利益変更にあたると解される。
結論
控訴審は第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることはできず、第一審判決を維持して、原告の控訴を棄却すべきである。
実務上の射程
相殺の抗弁の特殊性(理由中の判断の既判力)から生じる不利益変更禁止の原則の具体化である。答案上は、原告のみの控訴において、一審で認められた相殺(債権消滅)を否定して債権不成立(初めから存在しない)と認定し直すことが、原告にとって「判決の形式」ではなく「既判力による実質的な不利益」を招く場合に、本判例を引用して不利益変更にあたると指摘する。
事件番号: 昭和29(オ)444 / 裁判年月日: 昭和32年2月28日 / 結論: 破棄自判
一 控訴審において訴の変更による新訴が係属した場合、新訴については、控訴裁判所は、事実上第一審としての裁判をすべきであり、たとえ新訴に対する結論が旧訴に対する第一審判決の主文の文言と合致する場合であつても、控訴棄却の裁判をすべきではない。 二 訴の変更による新訴の提起があつても、旧訴につき適法な訴の取下または請求の放棄…