離婚の場合の慰藉料については、当事者の地位、年齢、財産関係その他諸般の事情を斟酌して決定すべきであるから、当事者の収入のほか扶養料の支払を命ずる審判がなされていることを斟酌したからといつて違法であるとはいえない。
離婚の場合の慰藉料の算定について扶養料の支払を命ずる審判がなされていることを斟酌することの可否
民法709条,民法710条
判旨
有責配偶者による離婚請求であっても、その不貞行為や事情を除外したとしても婚姻を継続し難い重大な事由が認められる場合には、離婚請求は正当として是認される。また、離婚に伴う慰謝料額の算定においては、当事者の経済的地位や扶養料の支払状況など諸般の事情を総合的に斟酌すべきである。
問題の所在(論点)
有責配偶者からの離婚請求において、その有責性を除外しても婚姻関係の破綻が認められる場合に離婚が許容されるか。また、離婚慰謝料の算定において、他の扶養義務の履行状況等を考慮することは許されるか。
規範
1. 民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否は、原告側の不貞行為等の有責性を考慮から除外したとしても、客観的に婚姻関係が破綻しているといえる事情が存するか否かによって判断される。2. 離婚に伴う慰謝料額は、当事者の地位、年齢、財産関係、及び扶養料の支払を命ずる審判の有無等、諸般の事情を総合的に斟酌して決定される。
重要事実
夫(原告・被上告人)が妻(被告・上告人)に対し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を請求した。一方で、夫側にも不貞行為等の有責性が認められる事実があった。原審は、夫の不貞行為やそれに起因する事情を差し引いても、婚姻関係が客観的に破綻しており継続が困難であると判断し、離婚を認めるとともに、夫の収入や別途命じられていた扶養料の支払状況等を考慮して慰謝料額を決定した。これに対し、妻側が上告したものである。
事件番号: 昭和32(オ)463 / 裁判年月日: 昭和35年2月2日 / 結論: 棄却
婚姻事件においても、証拠調の限度は、裁判所が既に得た心証の程度により自由にこれを定めることができ、必ずしもつねに職権による当事者本人尋問の施行を要するものではない。
あてはめ
1. 離婚原因について:本件では、夫側に人妻との貞操を疑われる不謹慎な行為や不貞行為が認められるものの、それらの有責事情を捨象したとしても、なお婚姻を継続し難い重大な事由が別途存在している。したがって、有責性の存在のみをもって直ちに離婚請求を排斥すべきではなく、客観的な破綻状況を正当に是認できる。2. 慰謝料について:慰謝料算定は裁判所の裁量に属するところ、夫の収入のみならず、扶養料の支払を命ずる審判が既になされているという具体的経済状況を考慮することは、諸般の事情を斟酌するものとして合理的である。
結論
本件離婚請求を認容し、諸般の事情を考慮して慰謝料額を決定した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
有責配偶者からの離婚請求に関する初期の判例であり、破綻主義的要素を示唆する。答案上は、770条1項5号の該否において「有責性による信義則違反(クリーンハンズの原則)」が問題となる場面で、有責事情を切り離しても破綻といえる事情がある場合の処理として参照し得る。また、慰謝料算定における裁量権の範囲と考慮要素の具体例(扶養料との調整)を示す際にも有用である。
事件番号: 昭和30(オ)899 / 裁判年月日: 昭和32年4月11日 / 結論: 棄却
妻が有効に離婚が成立したものと信じて、他の男子と婚姻をなした後、先夫から前婚についての離婚無効確認および後婚についての婚姻取消の訴を提起せられ、右各訴はいずれも妻の敗訴に確定した場合であつても、前婚につき、婚姻を継続し難い重大な事由があることを理由として、妻が離婚の訴を提起することを妨げるものではない。