当事者の主張した契約と認定の契約との間に同一性が認められる限り、その間たとえ契約成立の日時、履行期等につき多少くい違いがあつても、当事者の主張しない事実に基づいて裁判をした違法があるとはいえない。
主張と認定との間に同一性がある場合と弁論主義
民訴法186条
判旨
当事者の主張と裁判所の認定との間に契約の細部で相違があっても、契約の同一性が認められる限り、弁論主義違反とはならない。また、小作人が耕作中の農地売買において、小作人の明渡拒否が予測可能であった場合には、これを理由とする要素の錯誤は認められない。
問題の所在(論点)
1. 契約の履行期について当事者の主張と異なる事実を認定することが、弁論主義に違反するか。 2. 小作人の明渡拒否により引渡しが困難となった場合、売主は要素の錯誤を理由に契約の無効(取消し)を主張できるか。
規範
1. 弁論主義(当事者の主張しない事実に基づく裁判の禁止)について:当事者が主張した契約と裁判所が認定した契約との間に、日時や履行期等につき多少の食い違いがあっても、契約の同一性が認められる限り、弁論主義の違反とはならない。 2. 要素の錯誤(現行民法95条1項、当時の民法95条)について:売買契約時に将来の事態(小作人の明渡拒否等)が予測可能であり、かつ取引の実情に照らして売主側から無効を主張することが適当でない場合には、要素の錯誤は認められない。
重要事実
被上告人(買主)と上告人(売主)は、農地の売買契約を締結した。登記の履行期について、買主は「定めなし」、売主は「昭和26年6月末日の代金支払と引換」と主張したが、原審は「同日までに代金支払と引換に、県知事の許可を得た上で遅滞なく」登記する約定であったと認定した。また、目的物の一部を小作人Eが耕作しており、Eが明渡しを拒否したため、売主は「引渡しは不可能であり、仮に可能であれば契約しなかった」として要素の錯誤による契約無効を主張した。
あてはめ
1. 弁論主義について:売買契約の日時、代金、目的物件等の主要な部分は当事者の主張と認定が一致しており、契約の同一性が認められる。履行期に関する細部の食い違いは、当事者の主張しない事実に基づく裁判には当たらない。 2. 錯誤について:小作人が耕作中の農地売買では、現実の明渡しが行われるまで確実な保証は困難であり、売主において小作人の明渡拒否は予測可能であった。また、買主からの引渡請求に対し、売主側から明渡不能を理由に錯誤無効を主張することは「取引の実情にそぐわない」。したがって、要素の錯誤があるとは認められない。
結論
1. 契約の同一性が維持されているため、原審の事実認定に弁論主義違反の違法はない。 2. 売主において予測可能であり、かつ信義則上も不適切な錯誤の主張は認められず、本件売買契約は有効である。
実務上の射程
弁論主義における「主要事実」の認定の幅を示すとともに、動機の錯誤(あるいは将来の予測に関する錯誤)において、その予測可能性や取引上の信義則が要素の錯誤の成否を左右することを示唆する。特に、義務者(売主)側から履行困難を理由に錯誤無効を主張することへの制約として機能する。
事件番号: 昭和32(オ)345 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が契約解除の有効性を争い、その原因となる事実(代金債務不履行)や解除通知の事実が主張・立証されている場合、裁判所がこれらに基づき解除を有効と判断することは、弁論主義(民事訴訟法186条、現146条等参照)に反しない。 第1 事案の概要:上告人とDとの間で売買契約が成立した。被上告人は、上告人…
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。