甲乙間に甲所有の(い)の土地並びに同地上の家屋(店舗および附属工場)の売買が成立した場合において、本来(い)の土地には、右家屋のほか、なお甲所有の土蔵が存するにかかわらず登記簿上、土蔵は隣地たる甲所有の(ろ)の土地に所在することになつており、甲乙双方とも売買成立後相当日時を経過するまで、右土蔵敷地が(い)の土地の一部であることを知らず、右土蔵自体は前記売買の目的とされなかつたものであり、しかも乙は売買同時現場に検分に行つたが、当時甲乙間で土蔵の収去または存置等の処置について協議した形跡もない以上、他に特段の事情のないかぎり、前記売買においては、右(い)の土地(一筆全部で七七坪五勺)中、土蔵の敷地(二〇坪四合二勺)は売買の目的から除外する暗黙の意志表示があつたものと認めるのが相当である。
一筆の土地の一部を除外して売買がなされたと認むべき一事例
民法第1編第4章1節(90条),民法第3編第2章1節1款(521条),民法176条
判旨
売買契約において、特定の建物が含まれないことが合意されていた場合、その建物の敷地部分が登記簿上一筆の土地に属していても、特段の事情がない限り、当該敷地部分を除外する暗黙の意思表示があったと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
売買契約において特定の建物を目的物から除外した場合、登記簿上一筆の土地として表示された土地のうち、当該建物の敷地部分についても売買の対象から除外する合意があったと認められるか。
規範
売買契約における目的物の範囲は、契約書の文言のみならず、取引の通念に照らし、当事者の合理的意思解釈によって決定される。一筆の土地全部の表示があっても、その土地上に存する特定の建物を売買の目的から除外する合意がある場合には、特段の事情がない限り、当該建物の敷地部分をも除外する暗黙の意思表示があったと推認すべきである。
重要事実
売主(上告人)と買主(被上告人)は、宅地、店舗及び工場を目的とする売買契約を締結した。この際、現場に現存する土蔵二棟については売買の目的物に含まないことが明らかであった。しかし、当該土蔵の敷地(約20坪)は、登記簿上は隣地に存在すると誤認されていたが、実際には売買対象である一筆の土地の一部であった。当事者はこの事実を知らず、売買後に初めて判明した。原審は、契約書の土地表示のみに基づき、土蔵敷地を含む一筆の土地全部が売却されたと認定した。
あてはめ
本件では、当事者双方が現場を確認した上で、土蔵二棟を売買の目的から除外していた。また、契約当時、当事者らは土蔵敷地が契約対象の土地(d町e番地)に含まれることを知らず、登記簿上の表示と実際の土地の状況が一致しないとの認識を持っていた。このような状況下で、土蔵を収去する等の特段の合意がないのであれば、土蔵を存置することを前提に、その敷地部分を売買対象から除外する意思があったと解するのが取引の通念に合致する。したがって、契約書の表示のみをもって一筆の土地全部の売却と認定することは、当事者の暗黙の意思表示の有無に関する審理を尽くしていないといえる。
結論
土蔵敷地を売買の対象から除外する暗黙の意思表示があったか否かについて、特段の事情の有無をさらに審理すべきであるとして、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
契約書の表示(一筆の土地全体)と、当事者の真意(一部の建物・敷地の除外)が食い違う場合の意思解釈の枠組みを示す。土地の一部除外について明示的な合意がなくとも、建物の除外合意から敷地の除外を推認する「取引の通念」を用いた論法として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1412 / 裁判年月日: 昭和39年2月7日 / 結論: 棄却
当該土地が既に公立中学校の敷地として使用されているからといつて、その土地を目的とする契約の意思表示を詐欺により取り消すことは、権利の濫用といわねばならないことはない。
事件番号: 昭和37(オ)332 / 裁判年月日: 昭和38年3月26日 / 結論: 棄却
(横田裁判官の意見) 特別の事情のないかぎり、要素の錯誤となる。