判旨
上告審において、原審で主張していなかった新たな事実上の主張を基礎として原判決の違法をいうことは、民事訴訟の手続上許されない。
問題の所在(論点)
上告審において、原審で主張していなかった新たな事実上の主張を行い、これを上告理由とすることが許されるか(民事訴訟法上の更新権の制限)。
規範
上告審は事後審であり、原則として原審の判決時までに顕出された訴訟資料に基づき、原判決の当否を判断すべきものである。したがって、原審において何ら主張していなかった事実を前提として、原判決の法令違反を主張することは認められない。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)からなされた月額5,000円の延滞賃料の催告に基づく契約解除を争っていた。上告人は、上告審において、当該催告より以前の事柄に関する新たな主張を行い、これを前提として解除の効力を争ったが、当該事柄は原審において一切主張されていなかった。
あてはめ
本件において、上告人が主張する事由は、契約解除の前提となった催告以前の事柄である。しかし、この主張は原審において上告人が何ら主張していなかったものである。上告審は原審までの主張・立証を基礎に法律判断を行う場であり、原審で提出されなかった事実関係を前提とする所論は、適法な上告理由として採用することができない。
結論
原審で主張されなかった事実に基づく上告理由の主張は採用できず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
民事訴訟法における上告審の性格(法律審・事後審)を端的に示す判例である。答案上は、控訴審までの主張立証の重要性を指摘する文脈や、上告審での主張制限(法律審の原則)を説明する際の根拠として活用できる。実務的には、事実認定の基礎となる主張は必ず事実審(特に控訴審の口頭弁論終結まで)に出し尽くさなければならないという教訓を示すものである。
事件番号: 昭和31(オ)755 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利濫用の抗弁は、その前提となる権利(賃借権等)の取得が認められない場合には、判断の対象とならない。また、控訴審で主張していない事実を前提とした判断遺脱の主張は、上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地について賃借権を取得したと主張し、その上で権利濫用の抗弁を提出した。し…
事件番号: 昭和34(オ)205 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の成否について、原判決の事実認定に法令違背はなく、証拠の取捨選択および判断は事実審の裁量に属する事柄であるとして、上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人は、相手方との間で売買契約が成立したと主張したが、原審(第一審および控訴審)は、上告人が主張する経緯の一部はむしろ売買が成立しない経緯…
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…