判旨
借地借家法上の更新拒絶や解約申入れにおける「正当の事由」は、賃貸人側の自己使用の必要性という一事のみで直ちに認められるものではなく、当事者双方の諸般の事情を総合考慮して社会通念に照らし妥当と認められる必要がある。
問題の所在(論点)
建物の賃貸借において、賃貸人に「自己使用の必要性」が認められる場合、それだけで当然に更新拒絶や解約申入れの「正当の事由」が具備されるといえるか。
規範
借地借家法(旧借家法1条の2)にいう「正当の事由」とは、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照らし妥当と認めるべき理由をいう。したがって、賃貸人が自ら当該建物の使用を必要とする一事をもって、直ちに正当の事由があるということはできない。
重要事実
賃貸人(上告人)が、建物を使用する必要が生じたことを理由に、借家法に基づき解約申入れを行った事案。上告人は「自己使用の必要性があるときは常に解約申入れにつき正当の事由が認められるべきである」と主張して上告したが、原審はこれを認めなかった。
あてはめ
本判決は、正当事由の有無を判断するにあたり、賃貸人側の事情(自己使用の必要性)のみを絶対視することを否定した。すなわち、賃貸人側の事情と賃借人側の事情(利害関係)を比較衡量し、その他の諸般の事情も含めて社会通念上妥当か否かを総合的に検討すべきとしている。本件では、上告人が主張する自己使用の必要性という単一の要素を重視する解釈は、判例の趣旨に反するものと評価された。
結論
賃貸人の自己使用の必要性があるからといって、直ちに正当の事由が認められるわけではない。本件解約申入れには正当の事由がないとした原審の判断を維持し、上告を棄却した。
実務上の射程
借地借家法28条における「正当の事由」の基本概念を確定した重要判例である。答案上では、①賃貸人側の事情(主たる要素)、②賃借人側の事情(従たる要素)、③立退料の提供(補完的要素)を総合考慮する際の、出発点となる規範として引用すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)1309 / 裁判年月日: 昭和30年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借家法(当時)1条の2にいう「正当の事由」とは、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照らし妥当と認めるべき理由をいう。 第1 事案の概要:賃貸人が借家法1条の2(現行借地借家法28条相当)に基づき、建物賃貸借契約の解約を申し入れた。原審は、賃貸借当事者双方の利害その他一切…