判旨
権利の行使が権利濫用に該当するか否かは、当該権利行使の目的、態様、およびその行使によって得られる利益と失われる利益との権衡を総合的に考慮して判断される。
問題の所在(論点)
被上告人による権利の行使(本訴請求)が、民法1条3項にいう「権利の濫用」に該当し、法律上許されないものといえるか。
規範
権利の行使が正当な範囲を逸脱し、信義誠実の原則(民法1条2項)に反すると認められる場合には、その行使は権利の濫用(同条3項)として許されない。具体的には、行使者に正当な利益が欠如していること、相手方に不当な苦痛・損害を与える目的があること、あるいは社会観念上容認できないほど両者の利益に著しい不均衡があること等を総合的に考慮して決すべきである。
重要事実
上告人は、被上告人による本訴請求(詳細な請求内容は判決文からは不明)に対し、当該請求が権利の濫用に該当すると主張して争った。原審は、諸般の事実を認定した上で、被上告人の請求が権利の濫用には当たらないと判断した。これに対し上告人が、原審の判断に法令解釈の誤りがあるとして上告した事案である。
あてはめ
本判決は、原審が認定した事実関係(具体的な事実は判決文からは不明)を前提とすれば、被上告人の本訴請求が権利の濫用に当たらないとした原審の判断は相当であるとした。特段、権利行使の目的が専ら相手方に損害を与えるもの(加害目的)であったり、社会的にみて著しく不相当な態様によるものであったりするなどの事情は認められないと解される。
結論
被上告人の本訴請求は権利の濫用には当たらず、適法な権利行使として認められる。
実務上の射程
本判決は、権利濫用の成否を事実認定の問題として原審の判断を維持したものである。答案上は、民法1条3項の適用の有無を検討する際、宇奈月温泉事件等の基準を念頭に置きつつ、本件のように総合的な利益衡量によって「正当な範囲」の逸脱を論ずる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
事件番号: 昭和26(オ)274 / 裁判年月日: 昭和31年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の濫用(民法1条3項)とは、権利の行使が義務者に対し損害を加える目的のみでなされる等、著しく信義誠実の原則にもとり公序良俗に反する場合をいい、明渡猶予期間の合意がある等の事情下では、特段の事情がない限りこれに該当しない。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人ら)に対し、昭和9…
事件番号: 昭和30(オ)645 / 裁判年月日: 昭和31年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物明渡請求が権利の濫用に当たるか否かは、請求側の正当な目的の有無に加え、相手方側の事情を総合的に斟酌し、社会通念上是認できない程度のものといえるかによって判断すべきである。 第1 事案の概要:被上告人(権利者)が上告人(占有者)に対し、本件建物の明渡しを求めて提訴した。上告人は、当該明渡請求が権…