判旨
銀行が小切手の取立を受託する際、裏書欠如という形式上の不備を看過して支払を不能にさせた場合、特約がない限り免責されず、善管注意義務違反を構成し得る。
問題の所在(論点)
銀行が小切手の取立受託時に裏書の欠如を看過したことが、受任者としての善管注意義務(民法644条)に違反するか。また、法定手続不履行に関する免責約款は、このような形式的不備の看過についても適用されるか。
規範
銀行による小切手取立受託業務は準委任契約に基づき、受任者たる銀行は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務(民法644条)を負う。取立預り証に「法定の手続をなさなかったために生じた事故」について免責する旨の約款があっても、特段の事情がない限り、銀行側が当然に負担すべき形式的不備の確認義務(裏書等の形式審査義務)までも免除する趣旨とは解されない。
重要事実
上告人は被上告銀行に対し、決済期限の迫った小切手の取立を委託した。当該小切手は指図人払であり、取立には上告人の裏書が必要であったが、上告人は裏書をせず銀行窓口に提出した。銀行係員はこの形式的不備を看過したまま支払人銀行へ送付したため、裏書欠如を理由に支払を拒絶され、決済期限経過により支払不能となった。銀行側は、取立預り証の免責約款(法定手続不履行による事故の免責)を理由に責任を否定した。
あてはめ
銀行業者が取立を受託する際、裏書等の形式的不備を発見し、委託者に注意を促して補完させることは、単なる道徳上の問題ではなく、受任者としての善管注意義務の内容に含まれる法律上の義務である。本件の免責約款は、銀行が自らなすべき法定手続を怠った場合の免責を定めたに過ぎず、顧客側の形式的不備を看過したことまで免責する趣旨とは認められない。したがって、係員が裏書欠如を看過してそのまま送付した行為は、善管注意義務違反に該当し得る。
結論
被上告銀行の係員が形式上の不備を看過したことにつき、善管注意義務違反(義務違背)が認められる余地がある。したがって、免責約款を適用して銀行の責任を否定した原判決には法律上の判断の誤りがある。
実務上の射程
銀行の取立事務における形式審査義務を肯定し、免責約款の解釈を厳格に制限した事例。答案上は、受任者の善管注意義務の具体的内容(特に専門的業者の確認義務)を論じる際や、定型約款の免責条項の射程を限定的に解釈する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)729 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】銀行が手形の不渡取消手続を依頼された際、振出人が既に取引停止処分を受ける直前の特殊な状態にあることを銀行が知り得ない状況下では、即刻の措置を講じなかったとしても過失は認められない。 第1 事案の概要:銀行(被上告人)D支店は、F社から手形の不渡取消手続の依頼を受け、E支店に打電した。当時、振出人(…