手形取立銀行が不渡取消の手続をなすにつき過失がないとした事例。
判旨
銀行が手形の不渡取消手続を依頼された際、振出人が既に取引停止処分を受ける直前の特殊な状態にあることを銀行が知り得ない状況下では、即刻の措置を講じなかったとしても過失は認められない。
問題の所在(論点)
手形の不渡取消手続の依頼を受けた銀行が、即刻の措置を講じなかったことにより振出人に損害が生じた場合、銀行に不法行為上の過失(注意義務違反)が認められるか。特に、振出人が直ちに取引停止処分を受ける特殊な状態にあることを銀行が知らなかった場合の過失の成否が問題となる。
規範
不法行為(民法709条)における過失の有無は、加害者がその時点の状況下において、被害者に生じうる損害を予見し、それを回避すべき義務に違反したか否かによって判断される。特に専門的機関である銀行であっても、取引関係がない相手方の特殊な事情(不渡届の提出により直ちに取引停止処分を受ける状態等)を知ることが不可能な場合には、その事情を前提とした高度な回避措置を講じないことが直ちに注意義務違反を構成するものではない。
重要事実
銀行(被上告人)D支店は、F社から手形の不渡取消手続の依頼を受け、E支店に打電した。当時、振出人(上告人)は手形交換所の警戒措置を受けており、予戒不渡届が提出されれば直ちに取引停止処分を受ける状態にあったが、E支店はこの事実を知らなかった。E支店は手形の不渡返還を受けた数十分後に不渡届撤回の措置をとった。手形交換所の規定では撤回期間は営業日3日間とされており、またE支店と振出人の間には取引関係がなく、振出人が特殊な状態にあることを知ることは不可能であった。
あてはめ
被告銀行E支店は、原告会社(振出人)との間に直接の取引関係がなく、原告が予戒不渡届の提出により直ちに取引停止処分を受けるという「特殊の状態」にあることを知ることは不可能であった。このような状況下では、不渡返還を受けてから数十分後に撤回措置を講じたことは、通常の事務処理として著しく不相当とはいえない。手形交換所の規定上も撤回期間には猶予があり、即刻の措置を講じなかったことが予見可能な損害に対する回避義務に違反したものとは認められない。したがって、銀行に過失があるとはいえない。
事件番号: 昭和43(オ)260 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
会社を被申請人とする仮処分命令が、同会社に対しては被保全権利が存在しないとして取り消された場合においても、右会社の取締役が会社の営業と競合する事業を個人として営んでいたため、仮処分申請人が被申請人を右取締役個人とすべきであるにもかかわらず、これを右会社と誤認した等判示の事実関係のもとにおいては、右仮処分命令を取り消す判…
結論
銀行が振出人の特殊な事情を知ることが不可能であった以上、迅速な措置を欠いたとしても過失は認められず、銀行は損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
銀行の過失相殺や注意義務を論じる際の基準として活用できる。特に「取引関係の有無」や「相手方の特殊事情の知得可能性」が過失認定を左右する重要な考慮要素となることを示している。
事件番号: 昭和51(オ)1309 / 裁判年月日: 昭和54年5月29日 / 結論: 破棄差戻
手形の買戻しをした者が不渡届消印手続を依頼するために、当該銀行に備えつけられた所定の用紙に所要事項を記載して担当の係員に提出したときは、右係員においてその受領を拒絶したとか、右依頼に基づき委任契約が成立するためには銀行側の特別の意思表示を必要とすることが明確にされているとか、の特段の事情がない限り、銀行側において依頼を…