手形の買戻しをした者が不渡届消印手続を依頼するために、当該銀行に備えつけられた所定の用紙に所要事項を記載して担当の係員に提出したときは、右係員においてその受領を拒絶したとか、右依頼に基づき委任契約が成立するためには銀行側の特別の意思表示を必要とすることが明確にされているとか、の特段の事情がない限り、銀行側において依頼を承諾したものとして、不渡手形消印手続に関する委任契約が成立したものと認めるのが相当である。
旧手形交換所交換規則所定の不渡届に対する消印手続の委任の成立を否定した判断に経験則違背があるとされた事例
民訴法185条,旧東京手形交換所交換規則21条
判旨
銀行業務の通常の過程において、手形の買戻しをした者が所定の用紙で不渡届消印手続を依頼したときは、銀行側が受領を拒絶するなどの特段の事情がない限り、特段の意思表示がなくとも委任契約が成立する。
問題の所在(論点)
手形交換における持出銀行に対し、顧客が所定の形式で不渡届消印手続を依頼した場合において、銀行側の明示的な承諾や特別の依頼がなくても委任契約(民法643条)が成立するか。また、その手続を行うことの実益の有無が契約の成否に影響するか。
規範
銀行における業務の通常の過程において、手形の買戻しをした者が、不渡届消印手続を依頼するために当該銀行備え付けの所定用紙に所要事項を記載して担当係員に提出したときは、①係員においてその受領を拒絶した、あるいは②委任契約成立のために銀行側の特別の意思表示が必要であると明確にされているといった「特段の事情」のない限り、銀行側が依頼を承諾したものとして委任契約が成立すると解するのが相当である。なお、当該手続を行う実益(意味)の有無は、契約成立後の受任者の義務履行の問題であり、契約自体の成否には影響しない。
重要事実
上告会社(振出人)の代表者Dは、被上告銀行B支店に対し、本件手形についての不渡届消印手続依頼書及び不渡手形受領証を提出した。当時、上告会社は既に取引停止処分を受けていたため、原審は、重ねて取引停止処分を回避するための消印手続は無意味であり、消印を求める「特別の依頼」がない限り委任契約は成立しないとして、契約の成立を否定した。これに対し、上告人が契約成立を主張して上告した事案である。
あてはめ
本件では、Dが銀行備え付けの所定用紙(不渡届消印手続依頼書等)を提出した事実が認められる。銀行側が受領を拒絶した形跡や、別途の特別の意思表示を契約成立の要件としていた事実はうかがわれない。したがって、通常の業務過程における依頼として、特段の事情がない限り銀行側の承諾があったとみなすべきである。原審が重視した「消印手続が無意味である」という点については、取引停止処分の取消・解除の可能性もあり、一概に無意味とはいえない。仮に実益が乏しいとしても、それは受任者としての義務履行の段階で考慮されるべき事柄であり、契約の成否を左右するものではない。よって、本件委任契約の成立を否定した原審の判断は誤りである。
結論
特段の事情がない限り、所定の書類提出により不渡届消印手続に関する委任契約は成立する。原判決を破棄し、契約成立を前提とした義務違反の有無等を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
銀行実務における定型的な依頼に対する契約成立の判断枠組みを示す。特に「手続の実益(主観的・客観的な意味の有無)」を契約の「成否」ではなく「履行(善管注意義務)」の問題として切り分けた点に実務上の意義がある。答案上は、黙示の意思表示による契約成立を肯定する際の経験則として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)729 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】銀行が手形の不渡取消手続を依頼された際、振出人が既に取引停止処分を受ける直前の特殊な状態にあることを銀行が知り得ない状況下では、即刻の措置を講じなかったとしても過失は認められない。 第1 事案の概要:銀行(被上告人)D支店は、F社から手形の不渡取消手続の依頼を受け、E支店に打電した。当時、振出人(…