判旨
裁判所は、当事者が主張していない錯誤無効の主張について、自ら進んで釈明権を行使すべき義務を負わない。
問題の所在(論点)
当事者が主張していない事項について、裁判所が釈明権を行使してその主張を促すべき釈明義務を負うか(釈明義務の限界)。
規範
民事訴訟における釈明権の行使(民事訴訟法149条参照)は、原則として裁判所の裁量に委ねられる。当事者が全く主張していない法律上の効果や事実関係について、裁判所が自ら進んで指摘し、主張を促すべき義務(釈明義務)は、原則として認められない。
重要事実
上告人は、本件手形振出行為が錯誤に基づくものであるから無効であると主張した事実は、原審の記録上認められなかった。それにもかかわらず、上告人は、原審の裁判所が錯誤無効の主張の有無につき釈明すべき義務を怠ったとして、原判決の違法を訴え上告した。
あてはめ
本件において、上告人は原審で錯誤無効の主張を行った形跡が全くない。裁判所は、当事者が提出した攻撃防御方法の範囲で審理を行うべきであり、当事者が全く言及していない無効原因の存否をあえて問い質す必要はない。したがって、原審が錯誤の主張の有無を確認しなかったことは、釈明義務の懈怠には当たらないと評価される。
結論
裁判所は、当事者が主張していない錯誤無効の主張について釈明義務を負わないため、原判決に違法はない。
実務上の射程
弁論主義の原則に基づき、新たな主張を誘導するような釈明(教唆的釈明)は原則として否定されることを示す。特に錯誤のような、当事者の内心に関わる事実は当事者の責任で主張すべきであり、裁判所の釈明義務の範囲は極めて限定的であると解すべき場合に用いる。
事件番号: 昭和32(オ)119 / 裁判年月日: 昭和33年5月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原判決の認定した事実に反する独自の主張に基づいている場合、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人が、原審において認定された事実とは異なる事実を前提として、原判決の判断の不当性を主張して上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):原判決の事実認定に反する事実に基づき原判…