銀行の本店審査部付調査役が支店長在職中に貸し付けた金員の回収事務につき銀行を代理する権限を有する場合でも、右貸付金を被担保債権とする抵当不動産の第三取得者と右不動産に関して貸付金の回収が実質上、不可能になるおそれのある判示のような損害担保契約の締結等をする代理権を有するものとはいえない。
銀行の本店審査部付調査役が支店長在職中に貸し付けた金員の回収事務につき銀行を代理する権限を有していても右貸付金を被担保債権とする抵当不動産の第三取得者と右不動産に関する損害担保契約を締結するなどの代理権限を有しないとされた事例
商法43条1項
判旨
銀行の本店審査部付調査役が、特定の債権回収事務に関して委任を受けた使用人(商法43条)に当たる場合であっても、債権の回収を不可能にするような損害担保契約の締結や債務免除を行う権限までは有しない。
問題の所在(論点)
特定の債権回収事務に従事する「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」(旧商法43条、現商法25条)の代理権の範囲に、債権を実質的に消滅させる債務免除等の処分行為が含まれるか。
規範
商法43条(現行商法25条)の「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」の代理権の範囲は、委任を受けた事務の性質・目的に照らして客観的に定まる。債権回収を目的として選任された使用人の権限は、原則として当該債権の保全・回収に必要な範囲に限定され、債権自体を消滅させ、または回収を不可能にするような処分行為(債務免除等)は、特別の事情がない限り、その権限の範囲外である。
重要事実
銀行のD支店長であった者が、本店審査部付調査役として、自ら貸し付けた金員の回収業務に従事していた。この調査役は、債務者との間で損害担保契約を締結し、または債務免除の意思表示を行った。しかし、これらの行為が行われると、銀行が本件不動産によって担保されていた債権は実質的に回収不可能となる性質のものであった。相手方は当該調査役に代理権があると信じていたが、原審はその点につき相手方に重過失があると認定した。
あてはめ
本件調査役は、支店長時代の貸付金の「回収事務に関してのみ」委任を受けた使用人である。回収事務の本旨は債権の実現にある。これに対し、本件の損害担保契約や債務免除は、銀行の債権を実質的に回収不能とするものであるから、回収事務の目的と真っ向から矛盾する。したがって、これらの処分行為は委任を受けた事務の範囲に含まれず、客観的な代理権の範囲外である。また、相手方が代理権があると信じた点についても、原審の認定によれば重大な過失が認められるため、表見代理の成立も否定される。
結論
本件調査役には債務免除等の代理権はなく、銀行は当該処分行為による拘束を受けない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
特定の事務(特に回収事務)を任された使用人の権限が、その事務の本旨に反する処分行為(免除・放棄)にまで及ばないことを示した。答案上では、商法25条の代理権の範囲を「委任を受けた事務の客観的性質」から限定的に解釈する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1103 / 裁判年月日: 昭和42年11月2日 / 結論: 破棄差戻
被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り、または少なくとも重大な過失によつてこれを知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法第七一五条により使用者に対してその取引行…