判旨
調停において、将来の債務不履行を条件として目的物の売買契約を成立させる旨の合意をすることは、当事者の自由な意思に基づく行為であり、それ自体が権利の行使ではないため権利濫用の問題は生じない。また、前提となる明渡請求等に権利濫用の余地があっても、そのこと自体が直ちに売買の合意という意思表示の効力に影響を及ぼすものではない。
問題の所在(論点)
調停において、将来の義務不履行を条件に目的物を売り渡す旨の合意(制裁的側面を持つ売買予約等)をすることが、権利の濫用として無効となるか。
規範
権利濫用(民法1条3項)の法理は「権利の行使」について適用されるものである。調停において一定の条件で売買契約を締結する旨の条項を申し込み、または承諾することは、契約自由の原則に基づく私人の自由な行為であって、それ自体は権利の行使には当たらない。また、公序良俗違反(同法90条)や不法条件(同法133条)となる場合は格別、特定の請求権の行使に濫用が認められるとしても、その結果としてなされた別個の意思表示(売買の合意等)の効力が当然に否定されるものではない。
重要事実
土地賃貸人である被上告人は、上告人との調停において、(1)上告人が将来の一定期限までに建物を収去して土地を明け渡すこと、(2)もし上告人がこの義務を履行しないときは、当該建物を被上告人に一定代金で売り渡すこと、という条項で合意した。その後、上告人が期限内に収去明渡をしなかったため、被上告人は上記(2)の予約または条件付売買に基づき所有権移転登記を求めて提訴した。これに対し上告人は、被上告人には土地明渡を求める必要性が乏しい一方、上告人の損害が甚大であること等を理由に、調停条項の成立自体が権利の濫用であり無効であると主張した。
あてはめ
まず、被上告人が調停において売買条項を提案し承諾した行為は、本人の自由な意思決定の範囲内であり「権利の行使」そのものではない。したがって権利濫用の問題は生じない。次に、仮に被上告人が土地明渡を要求したこと自体に権利濫用の評価がなされる余地があったとしても、それは明渡義務の存否に関する問題にすぎない。売買契約の成立は当事者の合意によるものであり、明渡請求の濫用性が直ちに売買承諾という意思表示の効力を左右するものではない。本件調停条項が強迫や公序良俗違反に当たるといった特段の事情(民法133条の不法条件等)も認められないため、合意は有効である。
結論
事件番号: 昭和27(オ)108 / 裁判年月日: 昭和28年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の条件が成就するまでの間、一時的に所有権を移転させる合意は仮装のものに過ぎず、真実の所有権移転の効力は生じない。また、他主占有権原に基づき、かつ善意等の要件を欠く場合には、取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:被上告人と訴外Dとの間で、本件不動産の所有権移転契約が締結された。しかし、その実…
本件調停条項の成立に権利濫用の法理は適用されず、条件成就により売買の効力が生じる。したがって、上告人は建物の移転登記義務を免れない。
実務上の射程
契約締結プロセスの入口となる要求(本件では明渡請求)に不当な面があっても、それとは別に有効な合意(調停条項)が成立した以上、後者を独立して無効とすることは難しいことを示す。権利濫用の対象を「権利の行使」に限定し、私的自治の帰結である契約の効力を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和37(オ)1028 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和45(オ)10 / 裁判年月日: 昭和46年10月28日 / 結論: 棄却
不法の原因により既登記建物を贈与した場合、その引渡をしただけでは、民法七〇八条にいう給付があつたとはいえない。
事件番号: 昭和27(オ)893 / 裁判年月日: 昭和29年7月27日 / 結論: 棄却
双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。
事件番号: 昭和25(オ)118 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論終結後、裁判官が退廷した後に書記官と当事者一方が法廷に居残ったとしても、その事実のみで直ちに訴訟手続または判決が違法となるわけではない。また、判決書における「控訴人」と「被控訴人」の誤記が判決の結果に影響を及ぼさない場合には、上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人(控訴人)は、原…