不法の原因により既登記建物を贈与した場合、その引渡をしただけでは、民法七〇八条にいう給付があつたとはいえない。
民法七〇八条にいう給付と既登記建物の贈与に基づく引渡
民法708条
判旨
不法原因給付(民法708条)の「給付」にあたるためには、既登記建物の贈与においては、単なる占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手続が履践されていることを要する。
問題の所在(論点)
不法原因に基づく既登記建物の贈与において、占有の引渡しは行われたが登記が未了である場合に、民法708条の「給付」があったといえるか。
規範
民法708条本文にいう「給付」があったといえるためには、終局的な利益の移転があったことを要する。不動産の贈与が不法の原因に基づく場合、受贈者が贈与者からの返還請求を拒みうるためには、当該不動産が既登記のものである限り、占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手続が履践されていることを要するものと解すべきである。
重要事実
上告人と被上告人B2は、いわゆる妾関係の継続維持を目的として、B2が取得予定の本件建物を上告人に贈与する旨の合意をした。上告人は本件建物に転居して占有を開始し、その後B2は本件建物の所有権を取得して自己名義の所有権移転登記を経由したが、上告人への移転登記は行わなかった。後にB2は、上告人に対し本件建物の返還を求めた。
事件番号: 昭和45(オ)472 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 棄却
建物を建築してその所有権を取得した者が、自己の債権者からの強制執行を免れるため、長男の承諾を得てその名義で所有権保存登記を経由した場合であつても、その登記を経由した当時はいまだ右建物につき現実に強制執行を受けるような客観的状態がなかつたなどの事実関係が認められるときは、長男の名義でなされた右所有権保存登記は、民法七〇八…
あてはめ
本件における建物贈与は、妾関係の維持を目的とするものであり、不法の原因に基づくものといえる。もっとも、本件建物は既登記物件であるところ、上告人はB2から引渡しを受けて占有しているにとどまり、所有権移転登記手続は履践されていない。既登記の不動産においては、登記の移転があって初めて終局的な利益の移転があったと評価できるため、占有の移転のみでは「給付」があったとは認められない。
結論
本件贈与について民法708条の「給付」があったとは認められないため、同条による返還拒絶は認められず、B2からの請求は正当である。
実務上の射程
不法原因給付の「給付」の意義について、不動産(既登記)の場合は登記を要するという基準を明確にしたものである。答案上は、不法原因給付による反射的効果としての所有権移転を主張する際、未登記不動産であれば引渡しのみで足りるが、既登記不動産であれば登記が必要であるという区別の文脈で使用する。
事件番号: 昭和27(オ)108 / 裁判年月日: 昭和28年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の条件が成就するまでの間、一時的に所有権を移転させる合意は仮装のものに過ぎず、真実の所有権移転の効力は生じない。また、他主占有権原に基づき、かつ善意等の要件を欠く場合には、取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:被上告人と訴外Dとの間で、本件不動産の所有権移転契約が締結された。しかし、その実…
事件番号: 昭和28(オ)1048 / 裁判年月日: 昭和30年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】調停において、将来の債務不履行を条件として目的物の売買契約を成立させる旨の合意をすることは、当事者の自由な意思に基づく行為であり、それ自体が権利の行使ではないため権利濫用の問題は生じない。また、前提となる明渡請求等に権利濫用の余地があっても、そのこと自体が直ちに売買の合意という意思表示の効力に影響…
事件番号: 昭和25(オ)105 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、代理人が本人に代わって契約を締結する旨を表示した事実は、本人のためにすることを示したものとして顕名(民法99条1項)が認められる。また、契約成立の単なる経過的事由は請求を理由あらしめる主要事実ではないため、当事者の主張と多少異なる事実を認定しても弁論主義には反しない。 第1 事案…
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…