判旨
理事が署名に理事の名称を用いた場合であっても、諸般の事情に照らし、理事が個人として当該行為を行ったと認められる場合には、法人の行為としての効果は生じない。
問題の所在(論点)
理事が法人の名称を冠して署名した場合において、法人の代表としての行為ではなく、個人の資格による行為と認定し得るか、またその際の判断基準が問題となる。
規範
法人の理事が署名に理事の名称を用いた場合には、原則として法人の代表者の資格において行為したものと認めるべきである。もっとも、当該行為に至った経緯、書面の文言内容その他諸般の事情に照らし、理事が個人として当該行為を行ったと認められる特別の事情がある場合には、法人の行為としての効力(追認等)は生じない。
重要事実
上告組合の理事Dは、上告組合または上告組合長宛に約束手形を振り出し、また支払猶予を依頼する手紙を差し出した。これらの書面にはDの理事としての名称が記載されていたが、原審は証拠に基づき、Dが個人の資格でこれらの行為を行ったものと認定した。上告人は、Dが法人の代表者として行為したことを前提に、その行為による追認の効果を主張して上告した。
あてはめ
本件においてDは理事の名称を冠しているが、証拠によればDは個人の資格で手形の振出や手紙の送付を行っている。署名に役職名があることは代表としての行為を推認させるが、行為の経緯や文言内容などの具体的事実に照らせば、形式的な名称にかかわらず個人の行為と認定することが可能である。したがって、Dが組合を代表する権限を有していたか等の代表権に関する検討を要さず、組合による追認があったとは認められない。
結論
理事が個人の資格で行った行為は、たとえ理事の名称が付されていても法人に効果は帰属せず、法人の行為としての追認は成立しない。
実務上の射程
法人の代表者が行った行為が、法人としての行為(代表行為)か、それとも代表者個人の行為(個人行為)かを区別する際の認定手法を示すものである。答案上は、顕名の有無や代表権の範囲を論ずる前提として、行為の帰属主体を事実認定する際の枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)53 / 裁判年月日: 昭和34年6月11日 / 結論: 棄却
Aの氏を有し、以前A製材組合の商号で木材業をしたことのある者が、木材業を営む甲のため、自己の居宅内およびその附近の一部を甲の事務所、木材置場として使用させ、玄関の土間の部分に「A木材」の看板を掲げることを許す等、原審認定のような事情(原判決理由参照)があつたときは、右の者は、同人の氏を使用して営業をなすことを甲に許諾し…