判旨
相殺の自働債権となるべき債権につき、被告が主張する取引の当事者が原告(債権者)であると認められない場合には、当該自働債権が存在しないとして相殺の抗弁を排斥できる。
問題の所在(論点)
被告が相殺の自働債権として主張する債権の発生原因取引について、受働債権の債権者(原告)がその当事者ではないと判断される場合、相殺の抗弁は認められるか。
規範
相殺の抗弁が認められるためには、自働債権が有効に存在し、かつその債権者が相殺を主張する者(受働債権の債務者)に対し、受働債権の債権者が自働債権の債務者であるという対立関係が必要である。債権の発生原因たる取引の当事者が、受働債権の債権者であると認められない場合には、当該債権を自働債権として相殺することはできない。
重要事実
原告が被告に対し債務の履行を求めたところ、被告は、原告が訴外Dと共に当事者として行った縄莚(なわむしろ)の取引から生じた債権を自働債権として相殺の抗弁を主張した。しかし、第一審および原審は、証拠に基づき、当該取引において原告が当事者であったとは到底認められないと判断した。
あてはめ
本件において、被告が相殺に供しようとした自働債権は、縄莚の取引に基づくものである。しかし、事実認定によれば、原告はその取引の当事者であったとは認められない。したがって、原告が当該自働債権の債務者であるという関係が成立せず、相殺の要件(債権の対立)を欠くこととなる。ゆえに、被告の主張する自働債権に係る点について更なる審理を尽くさずとも、相殺の抗弁を排斥した判断に違法はない。
結論
自働債権の発生原因取引に原告が関与していない以上、相殺の抗弁は認められず、上告は棄却される。
実務上の射程
相殺の抗弁における自働債権の存否および債権者・債務者の同一性という基礎的な要件に関する判断を示すものである。実務上は、相殺を主張する側が自働債権の発生原因事実(当事者の確定を含む)を立証する必要があることを再確認する事案といえる。
事件番号: 昭和32(オ)67 / 裁判年月日: 昭和33年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭消費貸借契約の成立について、本証である原告の証拠が被告の反証により真偽不明となった場合、立証責任を負う原告の請求は排斥される。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、被上告人(被告)に対して金銭の貸付けを行ったと主張し、貸借成立を理由に金銭の支払いを求めて提訴した。原審において、上告人は貸借成立…