判旨
自作農創設特別措置法に基づく買収農地の売渡相手の選定は、農業委員会の自由な裁量に委ねられており、その行使が著しく不合理でない限り適法である。
問題の所在(論点)
自作農創設特別措置法28条に基づき国が買い取った農地を売り渡す際、農業委員会に売渡相手を選定する裁量が認められるか、またその限界はどうあるべきか。
規範
自作農創設特別措置法第28条に基づく買取農地の売渡について、同法は「自作農として農業に精進する見込のある者に売り渡さなければならない」と規定するに留まり、売渡の優先順位を定めた規定はない。したがって、要件に該当する者が複数存在する場合、いずれの者に売り渡すかは、農業委員会の自由な裁量に委ねられる。ただし、裁量権の行使を著しく誤った場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法の問題が生じ得る。
重要事実
上告人は、本件農地を含む土地を50万円で買い受けた実態があったが、農業委員会は本件農地の売渡計画において、上告人以外の第三者を売渡の相手方として決定した。上告人は、自身が対価を支払っている事実を強調し、他者を相手方とする売渡計画は違法であると主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人が多額の代金を支払った事実は認められるが、これを理由に上告人への売渡を義務付けるならば、農地売買を統制下におく法の趣旨が没却され、闇売買を助長する結果を招きかねない。農業委員会が、上告人以外の者を「自作農として精進する見込のある者」として選定したことについて、裁量権の行使を著しく誤った(逸脱・濫用した)とする理由は認められない。
結論
農業委員会の売渡相手の選定は裁量の範囲内であり、上告人以外の者を相手方とした本件売渡計画は適法である。
実務上の射程
事件番号: 昭和28(オ)308 / 裁判年月日: 昭和32年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地の売渡しは、原則として買収時期の耕作者を対象とすべきであり、客観的評価において当該耕作者を不適当と認める特段の事情がない限り、他の者を相手方とする売渡計画は違法となる。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法により買収した農地について、売渡しの相手方の選定が問…
行政庁に広範な裁量が認められる場面において「著しく合理性を欠く場合(裁量の逸脱・濫用)」に限り違法となるとする、行政法上の裁量論の典型例として機能する。農地解放のような政策目的が強い場面での裁量権を肯定する文脈で活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)1100 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の裁量権の有無及び範囲は、根拠規定が客観的な判断基準を示しているか否かにより区別され、基準がない場合は政策的考慮に委ねられた自由裁量となる一方、基準がある場合はその基準への該当性に関し裁判所の審査が及ぶ。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創設特別措置法(以下「法」という)に基づき、本件土地…
事件番号: 昭和29(オ)550 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。
事件番号: 昭和27(オ)394 / 裁判年月日: 昭和32年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地の売渡計画において、賃借権者が権利を失っていない場合であっても、現に耕作に従事している転借権者を相手方として売渡計画を樹立することは相当である。 第1 事案の概要:上告人は本件土地の賃借権を有していたが、昭和20年11月23日以降、実際に本件土地において耕作の業務を…
事件番号: 昭和27(オ)537 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
農地委員会は、未墾地の所有者が自ら開墾する意思を表明したからといつて、必ずしもこれに拘束されるものではなく、自作農創設特別措置法の趣旨目的に基き諸般の事情を考量し、もつとも適当と認めるところに従つて買収計画を定むべきかどうかを決することができる。