判旨
単なる自動車の運転手は、特段の事情がない限り、雇用主を代理して運送契約を締結する権限を有しない。
問題の所在(論点)
運送業者の従業員である運転手が、雇用主を代理して運送契約を締結する権限を有するか。また、事実上の運搬行為が直ちに運送契約の成立を基礎付けるか。
規範
契約の成立を主張する者は、相手方の代理人と称する者に代理権が存在したこと、およびその者が代理人として意思表示をしたことを立証する責任を負う。特に、単なる自動車の運転手のような補助的職務に従事する者は、客観的にみて雇用主を代理して運送契約を締結すべき代理権を有しないのが通常である。
重要事実
上告人(荷主側)は、被上告人(運送業者側)に雇用されていた運転手Eが運転する車両によって荷物を運搬させたが、その際に損害が生じたとして、被上告人に対し運送契約に基づく責任を追及した。原審は、運転手Eは被上告人と何ら了解なく、事実上の事務に従事したに過ぎず、個人の好意によって運搬を行ったものと認定した。これに対し、上告人は運送契約の成立を主張して上告した。
あてはめ
本件において、運転手Eが被上告人を代理して意思表示をした事実や、Eに代理権が存在した事実は認められない。運転手という職種は、特段の事情がない限り、主人を代理して契約を締結する権限を有しないのが一般的である。また、本件の運搬は「好意による事実上の運搬」に過ぎず、法的義務を伴う運送契約の締結を目的とした意思表示の合致があったとはいえない。したがって、契約成立の要件である代理権および契約締結の事実の立証がなされていないと評価される。
結論
運転手Eに代理権はなく、被上告人との間に運送契約が締結された事実は認められないため、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
本判決は、補助的事務に従事する従業員が当然には代理権を有しないことを示したものである。司法試験においては、民法99条の代理権の有無や、110条の表見代理の成否を検討する際の基礎的な判断材料となる。特に、職種から推認される代理権の範囲を限定的に解する際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和43(オ)1159 / 裁判年月日: 昭和44年3月28日 / 結論: 棄却
甲が正運転手としてみずから自動車を運転すべき職責を有し、助手乙に運転させることを業務命令により禁止されていたにもかかわらず、他所から来てまだ地理も分らない乙に無理に自動車を運転させ、みずからは助手席に乗車して乙に運転上の指図をしていた等判示事情のあるときは、甲は、当時右自動車の運転者であつたと解すべきであり、自動車損害…