交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないと解するのが相当である。
交差点において追抜態勢にある自動車運転手の並進車に対する注意義務の範囲
民法709条
判旨
自動車の追い抜き態勢に入っている運転者は、特別の事情がない限り、並進する車両が交通法規に違反して突如進路変更してくることまでを予想して事故を防止すべき注意義務を負わない。また、自賠法3条の「運行供用者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつその使用による利益が自己に帰属する者をいう。
問題の所在(論点)
1. 追い抜き車両の運転者に、他車の交通法規違反を予見して事故を回避すべき注意義務が認められるか(過失の成否)。 2. 車両の所有者であるが運行に直接関与していない者が、自賠法3条の「運行供用者」にあたるか。
規範
1. 過失の有無(信頼の原則):先行車に続いて追い抜き態勢にある車両の運転者は、特段の事情のない限り、並進する他車が交通法規に違反して進路を変更し自車の進路に接近することまでも予想し、徐行や避譲措置を講じるべき業務上の注意義務を負わない。 2. 運行供用者性(自賠法3条):同条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、当該自動車の使用について「支配権」を有し、かつその使用により享受する「利益」が自己に帰属する者を指す(運行支配・運行利益)。
重要事実
上告人(原付自転車)が走行中、前方から進入してきた乗用車を避けるため、合図を出さず後方の安全確認も不十分なままハンドルを右に切り進路を変更した。その際、後方から時速約45キロで追い抜き態勢に入っていた被上告人B1(運転者)の軽貨物車と接触し転倒した。なお、当該車両は被上告人B2(B1の息子)の所有であったが、父B1が借り受けて自己の営業に常時使用しており、B2は運行について直接の支配力を及ぼし得ない状態にあった。
あてはめ
1. 本件事故当時、被上告人B1は先行車に続いて追い抜き態勢にあったところ、上告人が合図なしに突然進路を中央寄りに変更することは、交通法規に違反する予見困難な行動である。したがって、B1にこれを予見して回避する注意義務はなく、過失は認められない。 2. 被上告人B2については、車両をB1に貸し出し、B1が自身の営業のため常時使用していた。B2は運行自体を直接支配できる関係になく、運行支配・運行利益ともに欠いている。よって、B2は運行供用者には該当しない。
結論
1. 被上告人B1に過失はなく、不法行為責任(民法709条)は成立しない。 2. 被上告人B2は運行供用者にあたらず、自賠法3条の責任も負わない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
交通事故における「信頼の原則」を適用し、予見不能な法規違反行為への対応義務を否定した重要な先例である。また、自賠法3条の「運行供用者」の定義として、二元説(運行支配・運行利益)を明確に採用しており、実務上、名義貸しや家族間貸借における責任の有無を判断する際の基礎となる規範である。
事件番号: 昭和44(オ)231 / 裁判年月日: 昭和44年9月18日 / 結論: 棄却
甲の買い受けた自動車をその被用者が運転中に事故を起こした場合において、甲が、自動車運送事業の免許を受けないで、自動車の使用者名義を乙とし、車体に乙の商号を表示した該自動車を使用して、専属的に乙のための貨物運送にあたつていたもので、右事故もその業務に従事中におけるものであり、また、右自動車の割賦代金やガソリン代等は乙が支…