甲所有の自動車を乙が無断で私用のために運転して事故を起こした場合において、甲が右自動車のドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだままこれを第三者が自由に立ち入りうる自己の駐車場に駐車させていた事実があり、また、乙は、事故の数時間前まで甲の従業員であり、短時間内に返還する予定で乗り出し、しかし乗り出してから一〇分ないし二〇分後に事故を起こした等原判示の事実関係のもとにおいては、甲は、右事故につき、自己のため自動車を運行の用に供するものとしての責任を免れない。
自動車の所有者と雇傭関係にあつた者が無断運転中起こした事故につき所有者に自賠法三条による運行供用者責任が認められた事例
自動車損害賠償保障法3条
判旨
自動車損害賠償保障法3条の「運行供用者」にあたるか否かは、当該自動車の運行につき運行支配および運行利益を有しているかによって判断される。
問題の所在(論点)
自動車の所有者が、他人(訴外D)による運転中に発生した事故について、自賠法3条の「運行供用者」として損害賠償責任を負うか。特に、原審が明示しなかった運行利益の存否が争点となった。
規範
自動車損害賠償保障法3条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)とは、当該自動車の運行を支配し(運行支配)、かつ、その運行による利益が自己に帰属する(運行利益)者を指す。これら二要素の有無は、客観的事実関係に基づき総合的に判断される。
重要事実
上告人の知人である訴外Dが、上告人所有の本件自動車を運転中に事故を起こした。原審は、事故当時における具体的な管理状況や利用目的等の事実関係に基づき、上告人が本件自動車の運行につき支配を及ぼし得る立場にあり、かつ、その運行から何らかの利益を得ていたと認定した(具体的な事実関係の詳細は判決文からは不明)。これに対し、上告人が運行供用者責任の成否を争って上告した事案である。
あてはめ
最高裁は、原審が確定した客観的な事実関係に照らせば、本件事故当時において上告人は本件自動車の運行につき運行支配および運行利益を有していたと認められるとした。原判決が運行利益の点について明文で判示していなかったとしても、その判示内容全体を合理的に解釈すれば、運行利益を肯定しているものと解することができる。したがって、運行支配および運行利益の双方が備わっている以上、上告人は運行供用者にあたると評価される。
結論
上告人は本件自動車の運行供用者にあたり、自賠法3条に基づく賠償責任を免れない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
自賠法3条の責任主体である「運行供用者」の定義として、運行支配と運行利益の二要素を挙げる実務上の基本規範を再確認したものである。答案上は、まずこの二要素を定立した上で、所有権の有無、鍵の管理状況、運転者との人間関係、運行の目的(無断運転か否か等)といった具体的事実を各要素にあてはめて論じる際の指針となる。
事件番号: 昭和48(オ)839 / 裁判年月日: 昭和49年7月16日 / 結論: 棄却
未成年の子がその所有車両を運転中に事故を起こした場合において、父が、右車両を子のために買い与え、保険料その他の経費を負担し、子が、親もとから通勤し、その生活を全面的に父に依存して営んでいたなど原判示の事実関係(原判決理由参照)があるときは、父は、自動車損害賠償保障法三条による運行供用者としての責任を負う。