判旨
不動産売買において、代金支払が登記手続に先行する特約があり、かつ不払の場合に無催告解除をなし得る旨の合意がある場合、約定期限までに履行場所で代金の提供がなければ、特約に基づく無催告解除は有効である。
問題の所在(論点)
不動産売買において、代金支払の先履行と無催告解除の特約がある場合に、履行期日後に登記所で行われた履行の提供が「債務の本旨に従った提供」として解除権の発生を阻止し得るか。
規範
債務者が履行の提供(民法493条)をしたといえるためには、履行の場所において債務の本旨に従った提供がなされることを要する。また、代金支払が先履行とされ、かつ期限までの不払を解除条件とする無催告解除の特約がある場合、債務者が適切な履行場所で期限内に提供を行わない限り、債権者は催告を要せず直ちに契約を解除することができる。
重要事実
買主(上告人)は売主(訴外会社)との間で土地の売買契約を締結したが、手付金を支払わなかったため、売主は支払能力に不安を抱いた。そこで両者は、残代金を当初の支払期日(10月25日)に必ず支払うこと、および不払の場合には催告を要せず直ちに解除できる旨の念書を交わした。契約上、代金支払は登記手続に先行する約束であった。上告人は期日の翌26日に登記所へ代金を持参したが、売主は現れず、売主は念書に基づき無催告解除の意思表示をした。
あてはめ
本件では、代金支払が登記手続に先行する特約があり、所轄登記所を履行場所とする合意や慣習も認められない。上告人は約定期日である10月25日に代金を支払っておらず、翌26日に登記所へ赴いたとしても、それが合意された履行の場所における提供であるとの主張立証がない。したがって、上告人の行為は債務の本旨に従った履行の提供とはいえず、約定により発生した売主の無催告解除権を妨げるものではない。期日に支払がなされなかった以上、特約に基づき催告なしになされた解除は有効である。
結論
上告人の債務不履行を理由とする無催告解除は有効であり、売買契約は正当に解消された。よって本件上告は棄却される。
事件番号: 昭和25(オ)69 / 裁判年月日: 昭和27年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法557条1項にいう「履行に着手」とは、債務の履行そのもの、または履行の一部をなすのに欠くことのできない前提行為を行うことを指し、山林の売買において目的物の実地引渡しがなされた場合はこれに該当する。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)との間で山林の売買契約が締結された。売買に際し…
実務上の射程
無催告解除特約(失権約款)の有効性と、履行の提供における『履行の場所』の重要性を示す。特に不動産取引において『登記所での引換え』が常に実験則上の履行場所となるわけではなく、特約による先履行義務がある場合には、期限遵守と場所的適合性が厳格に要求されることを示す事案として活用できる。
事件番号: 昭和43(オ)356 / 裁判年月日: 昭和43年9月20日 / 結論: 棄却
一、土地の売買契約締結に際して、目的土地の一部を第三者が占有している場合に、売主が、右第三者の占有は権原に基づかないもので少なくとも一年位のうち明渡を受けて買主に目的土地を明け渡す旨言明したため、買主においてこれを信用し、右第三者使用部分の明渡が完了すると同時に残代金を支払うことを約したときには、右残代金の支払時期につ…
事件番号: 昭和55(オ)1023 / 裁判年月日: 昭和58年3月25日 / 結論: 棄却
民法五七六条但書にいう「担保ヲ供シタルトキ」とは、売主が買主との合意に基づいて担保物権を設定したか、又は保証契約を締結したなどの場合をいい、担保の提供について買主の承諾を伴わない場合はこれにあたらない。
事件番号: 昭和33(オ)705 / 裁判年月日: 昭和36年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払方法に関する契約において、買主が残代金の大部分を期日に弁済しなかったことにより、担保の目的物たる山林の所有権が確定的に売主に帰属するとした原審の判断を適法として維持した。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)は、土地の売買契約を締結したが、その代金支払方法について、残代…
事件番号: 昭和43(オ)3 / 裁判年月日: 昭和44年5月30日 / 結論: 棄却
一、契約に履行期の約定がある場合であつても、当事者がその履行期前には契約の履行に着手しない旨の合意をしている等特別の事情のないかぎり、その履行期前に民法五五七条一項にいう契約の履行に着手することができないものではない。 二、土地の買主がその売買代金の支払のため銀行支払保証小切手を提供した場合は、右規定にいう契約の履行に…