判旨
憲法32条の裁判を受ける権利は、裁判所以外の機関によって裁判をされないことを保障するものであり、個別の訴訟法上の管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利までを保障するものではない。
問題の所在(論点)
訴訟法上の管轄権を有する特定の具体的裁判所において裁判を受けることが、憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」の内容に含まれるか。
規範
憲法32条は、国民が憲法または法律に定められた裁判所においてのみ裁判を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によって裁判をされることがないことを保障するものである。したがって、特定の具体的裁判所における裁判を保障するものではなく、裁判所の管轄を定める訴訟法の適用誤りがあったとしても、直ちに同条違反とはならない。
重要事実
抗告人は、相手方に対する保険金請求事件において、甲府地方裁判所には管轄権がないとして東京地方裁判所へ移送する決定がなされたことに対し、これを維持した原決定を不服として抗告した。抗告人は、原決定の管轄権認定および民法・民訴法の解釈に誤りがあり、その結果、経済的理由から訴訟追行が不可能となり、憲法32条が保障する裁判を受ける権利が侵害されたと主張した。
あてはめ
抗告人の主張は、原審の事実認定の不当性や、民法109条、民訴法9条の解釈の誤りを前提とするものである。しかし、憲法32条の本旨は裁判所以外の機関による裁判を排除することにあり、訴訟法が定める管轄権を有する特定の裁判所において裁判を受けること自体を保障しているわけではない。したがって、たとえ原決定に法令解釈の誤りがあったとしても、憲法32条が保障する権利を侵害したものとはいえない。
結論
抗告人の主張には理由がなく、具体的裁判所における管轄の有無の問題は憲法32条違反の問題を生じさせないため、本件抗告を棄却する。
事件番号: 昭和26(ヤ)3 / 裁判年月日: 昭和26年12月14日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告において、民事訴訟法413条(旧法)の適用はなく、同条に基づく法令違背の主張は判断の対象とならないため、判断遺脱による再審事由(旧420条1項9号)は認められない。 第1 事案の概要:申立人は、東京高等裁判所の決定に対し、民事訴訟法9条の解釈誤り(法令違背)があるとして、旧4…
実務上の射程
裁判を受ける権利の制度的保障の範囲を限定的に捉えた判例であり、管轄違背や移送決定の是非を争う際に憲法違反を主張しても認められないことを示す。答案上は、管轄の定めの合憲性や、管轄違背があった場合の救済手段が法律上の問題に留まることを論述する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(し)43 / 裁判年月日: 昭和35年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条は、法律に定められた裁判所によって裁判を受ける権利を保障するものであり、特定の具体的裁判所で裁判を受ける権利までを保障するものではない。したがって、裁判の公平を維持し難いおそれがある場合に管轄を移転させることは、憲法31条、32条、37条1項、76条3項に反しない。 第1 事案の概要:被…
事件番号: 平成1(行ト)2 / 裁判年月日: 平成元年6月8日 / 結論: 棄却
行政庁を被告とする取消訴訟の管轄を定めた行政事件訴訟法一二条の規定は、憲法三二条に違反しない。
事件番号: 昭和58(ク)292 / 裁判年月日: 昭和59年1月30日 / 結論: 棄却
離婚の訴えの管轄を定めた人事訴訟手続法一条一項の規定は、憲法三二条に違反しない。
事件番号: 昭和26(ク)178 / 裁判年月日: 昭和26年10月11日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法上特に許された場合に限られ、民事事件においては憲法違反を理由とする特別抗告(旧民訴法419条の2、現行336条相当)のみがこれに該当する。 第1 事案の概要:抗告人が最高裁判所に対して抗告を申し立てた事案であるが、その抗告理由は、原決定において法律…