判旨
憲法32条は、法律に定められた裁判所によって裁判を受ける権利を保障するものであり、特定の具体的裁判所で裁判を受ける権利までを保障するものではない。したがって、裁判の公平を維持し難いおそれがある場合に管轄を移転させることは、憲法31条、32条、37条1項、76条3項に反しない。
問題の所在(論点)
刑訴法17条1項2号に基づく管轄移転の決定は、憲法32条(裁判を受ける権利)、37条1項(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)、および31条(適正手続)等に違反しないか。
規範
1. 憲法32条の保障は、国民が憲法または法律に定められた裁判所においてのみ裁判を受ける権利を意味し、訴訟法が定める管轄権を有する特定の具体的裁判所において裁判を受ける権利までも保障したものではない。 2. 憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗(へんぱ)でなく公平な組織構成を有する裁判所を指す。 3. 管轄移転(刑訴法17条1項2号)の決定において、裁判の公平を維持し難いおそれの有無を判断する際は、単に一般民衆の関心の高さだけでなく、被告人が被る不利益をも考慮して判断すべきである。
重要事実
被告人ら8名に対し、刑訴法17条1項2号(裁判の公平を維持し難いおそれがあるとき)に該当する事由があるとして、管轄移転の決定がなされた。これに対し被告人側は、労働組合員であることを理由とした差別的扱いで憲法14条に反し、また、本来の管轄裁判所で裁判を受ける権利(憲法32条等)を侵害するものであるとして特別抗告を申し立てた。なお、被告人側は、単に一般民衆が裁判の帰趨に関心を寄せていることのみを理由に管轄移転を行うことは違法であるとも主張した。
あてはめ
1. 憲法32条について、管轄移転は法律(刑訴法)に基づき適正に行われる限り、憲法が保障する「法律に定められた裁判所」の枠内にある。 2. 憲法37条1項について、本件管轄移転は公平な裁判を確保するための措置であり、公平な組織構成を否定するものではない。 3. 刑訴法17条1項2号の適用について、原審は単に一般民衆の関心が甚大であるという点のみならず、諸般の事情から裁判の公平を維持し得ない蓋然性を認めている。また、移転により被告人が被る不利益についても十分に考慮・説示していることから、憲法31条の適正手続にも反しない。
結論
管轄移転の決定は憲法各条項に違反せず、本件特別抗告を棄却する。
事件番号: 昭和28(し)2 / 裁判年月日: 昭和28年12月19日 / 結論: 棄却
裁判所の所管公文書毀棄の犯罪事実が当該裁判所に起訴審理されたからといつて、その一事をもつて直ちに刑訴一七条一項各号の事由があるものということはできない。
実務上の射程
憲法32条が「具体的裁判所」の管轄を固定するものではないことを明言した重要判例である。答案上では、管轄移転の合憲性や、裁判官の忌避・回避制度等の合憲的根拠を説明する際の基礎理論として活用できる。管轄の変更が「裁判の公平」という憲法的要請に基づくものであることを強調する文脈で引用すべきである。
事件番号: 平成8(し)6 / 裁判年月日: 平成8年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法17条1項2号に基づく管轄移転請求について、憲法37条の公平な裁判所の保障との関係で、原判断が同条項所定の事由に当たらないとした判断を正当として抗告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、被告人が刑事訴訟法17条1項2号に基づき、管轄移転の請求を行った事案である。被告人側は、地方の状況等…
事件番号: 昭和46(し)47 / 裁判年月日: 昭和46年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所の職員が請求者と通じていたという事実が認められない場合、適正手続違反等を理由とする特別抗告は前提を欠き、実質的な法令違反の主張は適法な抗告理由とならない。 第1 事案の概要:申立人は、損害賠償の請求者と越谷簡易裁判所の職員が通じていたと主張し、憲法31条および37条違反を理由として特別抗告を…
事件番号: 平成1(行ト)2 / 裁判年月日: 平成元年6月8日 / 結論: 棄却
行政庁を被告とする取消訴訟の管轄を定めた行政事件訴訟法一二条の規定は、憲法三二条に違反しない。
事件番号: 昭和25(ク)78 / 裁判年月日: 昭和26年2月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条の裁判を受ける権利は、裁判所以外の機関によって裁判をされないことを保障するものであり、個別の訴訟法上の管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利までを保障するものではない。 第1 事案の概要:抗告人は、相手方に対する保険金請求事件において、甲府地方裁判所には管轄権がないとして東京…