判旨
不動産の所有権の帰属が争われる事案において、建物の修繕、火災保険料の支払い、敷地借地権の譲受けおよび敷地料の支払い等の事実は、所有権を認定するための有力な資料となる。また、判決正本の裁判官名の誤記が原本や調書から明らかな誤記と判断できる場合は、口頭弁論に関与しない裁判官が判決をした違法があるとはいえない。
問題の所在(論点)
1. 不動産の所有権の帰属を認定するにあたり、修繕、保険料支払、借地料支払等の事実をどの程度考慮すべきか。 2. 判決正本に口頭弁論に関与していない裁判官の氏名が記載されている場合、判決の適法性に影響を及ぼすか。
規範
事実認定における証拠の取捨選択は裁判所の自由な裁量(自由心証主義)に属する。不動産の所有権認定においては、当該物件の管理実態(修繕の実施、保険加入)や付随する権利の行使状況(借地権の保有、地代の支払い)を総合的に考慮して判断すべきである。また、判決正本の記載に誤りがあっても、判決原本および口頭弁論調書との照合によりそれが単なる誤記と認められる限り、構成裁判官の違法は認められない。
重要事実
上告人と被上告人の間で本件家屋の所有権が争われた。被上告人は本件家屋を修繕し、火災保険を契約して保険料を支払い、さらに敷地の借地権を譲り受けて敷地料を支払っていた。一方、上告人は被上告人に対し月々金員を支払っていたが、これが家賃か借入金の利息かが争点となった。また、判決正本には口頭弁論に関与していない裁判官Hの名が記載されていたが、判決原本および口頭弁論調書には実際に関与した裁判官Jの名が記載されていた。
あてはめ
1. 所有権の帰属について、被上告人が家屋の修繕を行い、自己を被保険者として火災保険料を負担し、かつ敷地利用のための借地権を確保して敷地料を支払っている事実は、社会通念上、被上告人が所有者として振る舞っていることを示す有力な資料である。上告人が支払った金員の性質のみでは所有権を断定できないが、これらの管理・維持実績と他の証拠を総合すれば、被上告人の所有と認定した原審の判断は採証法則に反しない。 2. 裁判官の表示について、判決原本や口頭弁論調書に正当な裁判官Jの署名・関与が記録されている以上、正本の「H」という記載は印刷上の誤記にすぎないことが明らかである。したがって、基本となる口頭弁論に関与しない裁判官が判決に関与したという実質的な違法は存在しない。
結論
1. 管理・維持等の客観的事実に基づき所有権を認めた原審の判断は正当である。 2. 判決正本の氏名誤記は明らかな誤記であり、判決を無効とする理由にはならない。
事件番号: 昭和24(オ)65 / 裁判年月日: 昭和24年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟物たる権利関係に直接関係のない間接事実は、判決書において必ずしも摘示することを要しない。また、証人の証言が当事者の親族によるものであることのみをもって、その信用性を否定すべき実験則は存在しない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)に対し、貸金債権の存在を主張してその支払いを求め…
実務上の射程
事実認定の局面において、不動産の所有権者を特定するための「所有者らしい行動(修繕、保険、公租公課や地代の負担)」の重要性を示す。また、判決書の形式的瑕疵(裁判官の誤記)が、原本等により更正可能な範囲であれば上告理由にならないという民事訴訟実務上の限界を明らかにしている。
事件番号: 昭和23(オ)159 / 裁判年月日: 昭和24年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文における「眞正」の脱落が明白な誤記である場合、裁判所はこれを更正可能であり、その証拠能力を否定する理由にはならない。また、証拠申出の採用の是非は事実審裁判所の広範な裁量に属し、必要でないと判断した証人の取調べを制限しても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、第一審判決において証拠(甲第…
事件番号: 昭和24(オ)49 / 裁判年月日: 昭和24年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既判力の標準時は口頭弁論終結時であり、終結時点で被告が所有者であれば、その後の目的物喪失は判決の正当性に影響せず、履行不能による執行の問題にとどまる。 第1 事案の概要:上告人(被告)から被上告人(原告)への土地所有権移転登記手続を命じる訴訟において、原審の最終口頭弁論期日は昭和23年9月13日で…
事件番号: 昭和23(オ)147 / 裁判年月日: 昭和24年11月8日 / 結論: 破棄差戻
売買は常に時価でなされるとは限らないばかりでなく、特に売買の目的物中に統制価格ある物を含む場合は、統制価格にかかわらずこれより高い時価で売買がなされたものと推定すべきではない。