判旨
建物買受人が当初から建物の収去を承諾し、収去期限を特約していた等の事情がある場合、土地所有者による建物収去土地明渡請求は権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
建物買受人が当初から将来の建物収去を承諾し、収去期限の特約が存在する場合において、土地所有者による建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか。
規範
権利の行使が権利の濫用(民法1条3項)にあたるか否かは、権利行使によって得られる利益と相手方が被る不利益を比較衡量するとともに、権利取得の経緯や当事者間の特約等の諸般の事情を総合的に考慮して判断される。
重要事実
上告人(被告)は、被上告人(原告)の所有する宅地上に存在する建物を買い受けた。その際、上告人は当初から当該建物を買受後に収去することを承諾した上で売買条件を定めており、さらに収去の期限を設ける旨の特約を締結していた。その後、被上告人が建物収去土地明渡を求めて提訴したところ、上告人はこの請求が権利の濫用であると主張して争った。
あてはめ
上告人は、本件建物の買受当初から、買受後にこれを収去することをあらかじめ承諾していた。また、その承諾を前提として売買価格等の諸条件が決定されており、かつ具体的な収去期限についても特約がなされていた。このような事情の下では、土地所有者である被上告人が特約に基づき明渡しを求めることは正当な権利行使の範囲内であり、上告人に不当な不利益を強いるものとはいえない。したがって、権利行使の目的や態様に照らしても社会通念上相当なものと認められる。
結論
本件建物収去土地明渡請求は、権利の濫用には当たらず、適法である。
実務上の射程
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
土地利用に関する合意がある場合において、権利の濫用の抗弁を排斥するための有力な判断材料(収去の事前承諾、期限の特約、それらを前提とした対価設定)を示す。明渡請求に対する防御として権利の濫用が主張された際の、再反論の枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)645 / 裁判年月日: 昭和31年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物明渡請求が権利の濫用に当たるか否かは、請求側の正当な目的の有無に加え、相手方側の事情を総合的に斟酌し、社会通念上是認できない程度のものといえるかによって判断すべきである。 第1 事案の概要:被上告人(権利者)が上告人(占有者)に対し、本件建物の明渡しを求めて提訴した。上告人は、当該明渡請求が権…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和44(オ)818 / 裁判年月日: 昭和44年11月21日 / 結論: 棄却
土地の買受人が、地上に自己の親族が賃借人として建物を所有し営業していることを知つて、賃借権付評価額以下の価額で右土地を取得しながら、右賃借権の対抗力の欠如を奇貨として、賃借人の営業上多大な損失を意に介せず、賃借人に対して建物収去土地明渡を請求するときは、該請求は権利の濫用として許されない。
事件番号: 昭和34(オ)1113 / 裁判年月日: 昭和36年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約における既払代金没収の特約が、契約当事者の窮迫に乗じて締結されたなどの事情がない限り、公序良俗に反し無効であるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人Aは、本件地上の建物を収去しなければならない不利な立場にあった。Aは、土地賃貸人である訴外Dとの間で土地売買契約を締結する際、契約が解除され…