判旨
売買契約における既払代金没収の特約が、契約当事者の窮迫に乗じて締結されたなどの事情がない限り、公序良俗に反し無効であるとはいえない。
問題の所在(論点)
建物の収去義務という不利な状況下で締結された「既払代金没収の特約」は、相手方の窮迫に乗じたものとして民法90条(公序良俗)に反し無効となるか。
規範
契約の特約が公序良俗(民法90条)に反して無効となるか否かは、当該特約が射倖的であるか、あるいは当事者の一方の窮迫に乗じ、不当な圧迫を加えて締結させたものであるかといった、契約締結の経緯や内容の妥当性を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
上告人Aは、本件地上の建物を収去しなければならない不利な立場にあった。Aは、土地賃貸人である訴外Dとの間で土地売買契約を締結する際、契約が解除された場合には既払代金を没収する旨の特約(本件特約)を付した。その後、契約の効力や代金没収の是非をめぐり、本件特約が公序良俗に反し無効であると争われた。
あてはめ
本件において、上告人Aが建物収去義務を負うなどの「不利な立場」にあったことは事実である。しかし、その事実のみをもって直ちに、売主DがAの窮迫に乗じて不当な圧迫を加え、本件特約を締結させたとまでは認められない。また、既払代金の没収という内容自体も、直ちに射倖的契約として公序良俗に反すると断ずるに足りる証拠はない。
結論
本件特約が公序良俗に反するものとは認められず、有効である。
実務上の射程
契約解除に伴う既払金没収条項(違約罰的性質)が、暴利行為や公序良俗違反として争われる際の判断枠組みを示す。当事者間の交渉力の格差や不利な境遇がある場合でも、具体的・客観的に「窮迫に乗じた圧迫」が立証されない限り、私法上の契約の自由が優先されることを示唆している。
事件番号: 昭和34(オ)313 / 裁判年月日: 昭和36年6月16日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和35(オ)104 / 裁判年月日: 昭和37年2月23日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…