賃料の支払遅滞があれば賃貸借契約は当然に終了し賃借土地の明渡をする旨の調停に基づく場合であつても、不注意による賃料支払の遅滞を捉え、いわば虚に乗ずることがごとき信義に反する行為が賃貸人に存する場合は、明渡請求は権利の濫用というべきである。
調停に基づく権利といえども濫用は許されないとされた事例
民法1条3項
判旨
賃料支払の遅滞により賃貸借契約を当然に終了させる旨の調停条項に基づき、土地の明渡しを求めることは、権利の濫用にあたる場合には許されない。
問題の所在(論点)
調停条項(失権約款と同旨の合意)に基づき発生した土地明渡請求権の行使が、権利の濫用として制限されるか。
規範
調停調書に基づく権利といえども、民法1条3項にいう権利の濫用が許されないことは当然である。特約に基づき無催告で失効させるような強力な効力を有する場合であっても、信義則上の制約を受ける。
重要事実
賃貸人と賃借人との間で、賃料の支払を6か月分以上遅滞したときは、土地賃貸借契約は当然に終了し、賃借人は土地を明け渡す義務を負う旨の合意がなされ、これが調停条項となった。その後、実際に賃料が滞納されたため、賃貸人が右条項に基づき明渡しを求めた。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
あてはめ
原審の確定した事実関係によれば、賃料支払の遅滞が生じているものの、調停条項に基づく当然終了の効果をそのまま認めて土地明渡しを強制することは、具体的事情に照らして正当性を欠く。したがって、かかる請求権の行使は権利の濫用にあたると解される(具体的な事実関係の詳細は判決文からは不明)。
結論
本件調停条項に基づく明渡請求は権利の濫用にあたり、認められない。
実務上の射程
失権約款や調停条項のように、文言上は自動的に契約が終了する合意がある場合でも、無条件に効力が認められるわけではなく、信頼関係破壊の法理や権利の濫用の法理による修正を受け得ることを示す。答案では、契約の効力が発生する場面での実質的な不合理性を指摘する際の根拠となる。
事件番号: 昭和35(オ)1353 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
供託した旨の主張中に、提供したけれども受領を拒絶された旨の主張が包含されているとはかぎらず、後者の主張を前提とするかどうかを釈明させる義務は裁判所にない。
事件番号: 昭和34(オ)1113 / 裁判年月日: 昭和36年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約における既払代金没収の特約が、契約当事者の窮迫に乗じて締結されたなどの事情がない限り、公序良俗に反し無効であるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人Aは、本件地上の建物を収去しなければならない不利な立場にあった。Aは、土地賃貸人である訴外Dとの間で土地売買契約を締結する際、契約が解除され…
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…
事件番号: 昭和35(オ)43 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】調停により土地明渡義務を負担した者は、当該土地上の建物の所有権を喪失したとしても、調停に基づく義務の履行として依然として明渡義務を負う。また、不法占有に基づく損害賠償が否定される場合であっても、調停上の債務不履行に基づく損害賠償義務は免れない。 第1 事案の概要:上告人Aは、被上告人との間で、本件…