供託した旨の主張中に、提供したけれども受領を拒絶された旨の主張が包含されているとはかぎらず、後者の主張を前提とするかどうかを釈明させる義務は裁判所にない。
供託した旨の主張と受領拒絶を前提とする主張かどうかの釈明義務
民法494条,民訴法127条
判旨
賃貸借契約において、賃借人が長期の賃料延滞を解消せず、催告に対しても具体的な支払の意思を示さないまま猶予期間を徒過した場合、賃貸人による解除権の行使は信義則に反せず、権利の濫用にも当たらない。
問題の所在(論点)
数か月に及ぶ賃料延滞がある場合において、賃貸人による解除権の行使が信義則または権利濫用の法理により制限されるか。また、適法な提供を欠く供託に弁済の効力が認められるか。
規範
賃貸借契約の解除が信義則に反し、または権利の濫用として許されないとされるのは、契約の基礎となる信頼関係が依然として維持されていると認められる特段の事情がある場合に限られる。また、弁済供託が有効となるためには、債権者が予め受領を拒絶しているなどの要件(民法494条)を具備する必要があり、その主張立証がない限り弁済の効力は認められない。
重要事実
賃借人(上告人)は、昭和32年5月分以降の賃料を延滞していた。昭和33年1月20日、賃貸人(被上告人)が延滞賃料の支払請求に出向いた際、上告人の妻が同年32年4月分のみを支払い、これが最も古い延滞分に充当された。賃貸人は翌21日付で残債務の支払を催告したが、上告人は同月24日付回答書で「支払の資料は十分にある」と述べたのみで、具体的な支払の意思を示す態度をとることなく、催告期間を徒過した。上告人は賃料を供託したと主張したが、現実の提供(受領拒絶の事実)については主張・立証がなされていなかった。
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…
あてはめ
上告人は長期にわたる賃料延滞の状態にあり、賃貸人からの催告に対しても具体的な支払を履行せず、漫然と猶予期間を徒過させた。このような経過に照らせば、賃貸人による解除の意思表示が信義に反するものとはいえず、権利の濫用にも当たらない。また、供託については、債権者の受領拒絶という前提事実が主張・立証されておらず、単に供託したとの主張のみでは民法494条の要件を満たさないため、不適法な供託として弁済の効力は否定される。
結論
本件解除は有効であり、供託による債務消滅も認められない。したがって、解除に基づく賃貸借契約の終了が認められる。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理における「信頼関係の不随伴」を肯定する方向のあてはめモデルとして活用できる。特に催告後の賃借人の不誠実な対応が解除を正当化する重要要素となる点、および供託の有効性を争う際の主張立証責任の所在を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和35(オ)630 / 裁判年月日: 昭和37年5月25日 / 結論: 棄却
催告の過大が特に著しい程度でなく、支払義務のある限度の弁済の提供に対する債権者の受領拒絶も考えられない事情のもとでは、過大催告は必しも無効でない。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
事件番号: 昭和33(オ)963 / 裁判年月日: 昭和37年3月29日 / 結論: 棄却
適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
事件番号: 昭和37(オ)1277 / 裁判年月日: 昭和39年3月13日 / 結論: 棄却
甲所有の土地の一部を乙が賃借して家屋を建築して居住し、甲の居住家屋と相隣関係をなすとき、甲が甲使用の宅地部分に物置を設置して乙が賃借地の境界に植えた生垣の一部を枯死させたとしても、原判示(第一審判決引用)事実関係(第一審判決理由参照)のもとにおいては、乙の賃料不払を理由とする甲の右賃貸借契約解除は権利濫用にあたらない。