土地の買受人が、地上に自己の親族が賃借人として建物を所有し営業していることを知つて、賃借権付評価額以下の価額で右土地を取得しながら、右賃借権の対抗力の欠如を奇貨として、賃借人の営業上多大な損失を意に介せず、賃借人に対して建物収去土地明渡を請求するときは、該請求は権利の濫用として許されない。
対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利の濫用として許されないとされた事例
民法1条,建物保護ニ関スル法律1条
判旨
対抗力のない土地賃借権者に対する建物収去土地明渡請求が権利の濫用にあたる場合であっても、土地所有者は当該賃借権者に対し、不法占有を理由とする賃料相当額の損害賠償を請求することができる。
問題の所在(論点)
対抗力のない賃借人に対する土地明渡請求が権利の濫用として否定される場合において、土地所有者は賃料相当額の損害賠償を請求できるか。明渡請求の拒絶と損害賠償請求の可否の論理的整合性が問題となる。
規範
所有権に基づく土地明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)として拒絶される場合であっても、そのことによって占有者が適法な権原を直ちに取得するわけではない。したがって、対抗力を欠く賃借権者は所有者に対して占有を正当化できず、所有者は不法占有に基づく損害賠償(賃料相当額)の請求を別個になし得る。
重要事実
土地所有者である上告人は、対抗力を具備していない土地賃借人である被上告人Bに対し、所有権に基づき建物の収去および土地の明渡を求めるとともに、賃料相当額の損害金の支払いを請求した。原審は、上告人の買受けの経緯や親族関係等の諸事情に照らし、明渡請求については権利の濫用にあたると判断して棄却したが、賃料相当損害金の支払い請求については認容した。上告人はこの判断を不服として上告した。
事件番号: 昭和39(オ)283 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に抗弁権がないことを奇貨として、専ら嫌がらせや報復の目的で土地を買収し、建物収去土地明渡を求める権利行使は、所有権の濫用(民法1条3項)にあたり許されない。 第1 事案の概要:被上告人は本件土地所有者との間に安定した賃借権を有し、土地の買受け交渉中であった。しかし、上告人はこれを知りながら、…
あてはめ
本件では、上告人の明渡請求が権利の濫用とされる事情(買受けの経緯や親族関係等)が存在する。しかし、被上告人Bの賃借権は対抗力を備えていない以上、実体法上の占有権原を上告人に対抗することはできない。権利の濫用によって明渡請求という特定の権利行使が制限されるにすぎず、占有が適法化されるわけではないため、不法占有を理由とする損害賠償請求(後者の請求)を認容した原審の判断に違法はない。
結論
対抗力のない賃借人に対する土地明渡請求が権利の濫用となる場合でも、土地所有者による賃料相当額の損害賠償請求は認められる。
実務上の射程
権利の濫用が認められる場面における救済の調整を示す射程を持つ。答案上は、明渡請求が権利の濫用となる事案(土地の微小部分の侵害や、嫌がらせ目的の買受けなど)において、所有者側の経済的損失を補填する構成として、明渡請求を否定しつつ賃料相当額の不当利得返還・損害賠償請求のみを認める論法として活用できる。
事件番号: 昭和51(オ)478 / 裁判年月日: 昭和52年3月31日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする土地賃貸借の賃借人が、賃借地上の建物に登記をしていないため、賃借地を買い受けた者に対し、形式的には、その賃借権をもつて対抗することができない場合であつても、右登記をしていなかつたことに宥恕されるべき事情があり、また、土地の買受人が、賃借権に対抗力のないことを奇貨として、賃借人に対し土地の明渡しを求め…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和34(オ)288 / 裁判年月日: 昭和35年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権の承継が認められない事実関係の下では、建物買取請求権を行使することはできない。また、特段の事情がない限り、土地明渡請求が権利濫用や信義則違反に当たるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本件土地上の建物を所有し、被上告人(原告)に対して建物買取請求権を主張した。しかし、原審におい…