家屋収去土地明渡の請求が権利の濫用と認められた事例
判旨
賃借権に抗弁権がないことを奇貨として、専ら嫌がらせや報復の目的で土地を買収し、建物収去土地明渡を求める権利行使は、所有権の濫用(民法1条3項)にあたり許されない。
問題の所在(論点)
対抗力のない土地賃借人に対し、所有者が建物収去土地明渡を求めることが権利の濫用(民法1条3項)にあたるか。また、その判断の基準時はいつか。
規範
権利の行使が、主観的にも客観的にも専ら相手方に損害を与えることを目的とし、社会通念上容認される限度を超える場合には、権利の濫用(民法1条3項)として認められない。その判断基準時は、口頭弁論終結時である。
重要事実
被上告人は本件土地所有者との間に安定した賃借権を有し、土地の買受け交渉中であった。しかし、上告人はこれを知りながら、被上告人および同業のDに対する報復手段として、被上告人を出し抜いて土地を買収した。上告人は、被上告人の賃借権に対抗力がないことに乗じて、建物収去土地明渡を求めて提訴した。なお、提訴の契機となったDは、その後本件家屋から退去していた。
あてはめ
上告人は、被上告人が土地の買受け交渉中であることを知りながら、嫌がらせや報復という主観的目的で、対抗力のない賃借人の弱みに付け込み土地を買収している。この点、権利行使は主観的・客観的にも相手方に損害を与えることにのみ寄与するものである。さらに、報復の対象であったDが退去したことにより、競業の危険性という実質的利益も解消している。したがって、口頭弁論終結時において、上告人の請求は正当な利益を欠くものであるといえる。
結論
上告人の本訴請求は、口頭弁論終結時において所有権の濫用にあたり、許されない。
事件番号: 昭和33(オ)279 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かは、当該請求を認めることが社会通念上著しく正当性を欠くといえるか等の事実関係を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人(被告)に対し、被上告人(原告)が本件建物の明渡しを求めた事案である。原審において認定された事実関係の詳細…
実務上の射程
対抗力のない賃借人に対する明渡請求が「権利の濫用」とされる極めて限定的な事例(いわゆる信義則上の背信的悪意者的な場面)で機能する。また、権利濫用の成否は「提訴時」ではなく「口頭弁論終結時」の事情まで考慮して判断すべきことを明示しており、実務上の判断基準時として重要である。
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和44(オ)818 / 裁判年月日: 昭和44年11月21日 / 結論: 棄却
土地の買受人が、地上に自己の親族が賃借人として建物を所有し営業していることを知つて、賃借権付評価額以下の価額で右土地を取得しながら、右賃借権の対抗力の欠如を奇貨として、賃借人の営業上多大な損失を意に介せず、賃借人に対して建物収去土地明渡を請求するときは、該請求は権利の濫用として許されない。
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…