対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利濫用となる場合においても、土地所有権の取得者が、右賃借権者に対し、違法に土地を占有するものであることを理由に損害の賠償を請求することは、許される。
対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利濫用となる場合において土地占有を理由とする損害賠償を請求することの許否
民法709条
判旨
建物収去土地明渡請求が権利の濫用として許されない場合であっても、占有者が対抗し得る権原を有しない限り、その土地占有の違法性は阻却されず、不法行為に基づく損害賠償義務を免れない。
問題の所在(論点)
建物収去土地明渡請求が権利の濫用として否定される場合に、当該土地占有の違法性が阻却され、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求も否定されるか。
規範
建物収去土地明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)として許されないことにより、占有者が当該請求を拒絶し得る立場にあるとしても、特段の事情のない限り、そのことのみによって土地占有が権原に基づく適法なものとなるわけではなく、土地占有の違法性が阻却されるものでもない。したがって、不法行為(709条)の要件としての違法性は依然として肯定され得る。
重要事実
上告人は、被上告人が土地所有権を取得した日以降、被上告人に対抗しうる権原を有することなく、当該土地の仮換地および換地上に本件建物を所有して占有していた。被上告人は、上告人が有していた賃借権が対抗力を有しないことを理由に建物収去土地明渡を請求したが、当該請求自体は権利の濫用として許されないと判断された。しかし、被上告人は併せて、不法行為に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
上告人は被上告人に対抗しうる正当な権原を有していない。建物収去土地明渡請求が権利の濫用とされるのは、請求者の主観的意図や諸般の事情により当該行使が制約されるに過ぎず、占有者の占有が実体法上の占有権原に基づくものに転じるわけではない。よって、上告人の土地占有は被上告人との関係において依然として違法であり、不法行為の要件を充足する。明渡請求が許されないことと、占有の違法性を理由とする損害賠償を命じることは矛盾しない。
結論
上告人の占有の違法性は阻却されず、被上告人に対する損害賠償義務を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
権利の濫用によって明渡請求という物権的請求権の行使が阻止される場合でも、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求(賃料相当額等)は別個に成立し得ることを示す。答案では、権利の濫用の効果が物権的請求の拒絶に留まり、不法占有の状態自体を適法化するものではないことを論述する際に用いる。
事件番号: 昭和44(オ)818 / 裁判年月日: 昭和44年11月21日 / 結論: 棄却
土地の買受人が、地上に自己の親族が賃借人として建物を所有し営業していることを知つて、賃借権付評価額以下の価額で右土地を取得しながら、右賃借権の対抗力の欠如を奇貨として、賃借人の営業上多大な損失を意に介せず、賃借人に対して建物収去土地明渡を請求するときは、該請求は権利の濫用として許されない。
事件番号: 昭和39(オ)283 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に抗弁権がないことを奇貨として、専ら嫌がらせや報復の目的で土地を買収し、建物収去土地明渡を求める権利行使は、所有権の濫用(民法1条3項)にあたり許されない。 第1 事案の概要:被上告人は本件土地所有者との間に安定した賃借権を有し、土地の買受け交渉中であった。しかし、上告人はこれを知りながら、…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和37(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
甲が乙より土地を賃借した後、右土地の所有権が乙、丙、丁と順次譲渡された場合において、丙は乙の実子であり、丁は乙、丙その他これと血族または姻族関係にある者の同族会社であつて、その営業の実態は乙の個人営業をそのまま引き継いだものであり、乙がその中心となつている等原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、甲の右賃借権…