判旨
国家賠償法施行前の公権力の行使に起因する損害について、国は原則として賠償責任を負わない。公権力の行使には当然には民法が適用されず、旧憲法下において国の賠償責任を認めた一般法が存在しないためである。
問題の所在(論点)
国家賠償法施行前に行われた公務員による違法な公権力の行使について、国が損害賠償責任を負うか。公権力の行使に民法709条以下の規定が適用されるかが問題となる。
規範
公権力の行使に関しては、私人と同様の経済的活動の性質を帯びるものでない限り、当然には民法の適用はない。国家賠償法施行前においては、公務員の違法な公権力の行使について国の賠償責任を認める一般的な法令上の根拠はなく、その損害賠償請求については従前の例(無答責の原則)に従うべきである。
重要事実
上告人の所有する家屋は、昭和20年7月に疎開対象として国に買収された。上告人は和歌山県知事から同年7月31日までの解体撤去を条件に買戻許可を得たが、期限内に撤去しなかった。そのため、同年10月12日に警察官が当該家屋を破壊した。上告人は、この破壊行為が違法な公権力の行使であり、公務員の重大な過失に基づくものであるとして、国に対し損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
本件家屋の破壊行為は、日本国憲法及び国家賠償法の施行前に行われたものである。公務員に重大な過失があったとしても、当該行為は国の私経済的活動ではないため民法の適用はない。また、当時の法体系(旧憲法下)において公権力の行使に伴う国の賠償責任を一般的に認める法律は存在せず、判例も一貫して国の責任を否定していた。国家賠償法附則の「従前の例による」との規定に照らせば、本件にはなお無答責の原則が適用される。
結論
本件破壊行為について国が賠償責任を負う理由はない。国家賠償法が適用されない施行前の行為については、従前の例に従い国の賠償責任を否定すべきである。
実務上の射程
国家賠償法施行前の事案に関する限定的な射程を有する。もっとも、公権力の行使と私経済的活動(民事責任の範疇)を峻別する視点や、国賠法制定の歴史的経緯を理解する上で重要である。現代の答案作成においては、国賠法1条1項の「公権力の行使」の意義や、憲法17条が創設的権利であることを論証する際の背景知識として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)963 / 裁判年月日: 昭和36年5月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国家賠償法施行前になされた行政庁の違法な処分に基づく損害については、同法に基づき賠償を求めることはできない。 第1 事案の概要:上告人は、国家賠償法施行前に行われた特許局長官による処分が特許権を侵害する違法なものであると主張し、国に対してその損害の賠償を求めて訴えを提起した。 第2 問題の所在(論…