判旨
債務者が弁済期に債務を履行しない場合に、担保物件の所有権を直ちに債権者に帰属させ、物件を明け渡す旨の合意(代物弁済予約)は、特段の事情がない限り有効である。書面上「売渡担保」との記載があっても、当事者の真意が代物弁済予約にあると認められる場合には、その合意に従った効力が認められる。
問題の所在(論点)
債務者が弁済期に債務を履行しない場合に目的物の所有権を即時債権者に帰属させる旨の合意(代物弁済予約的性質を持つ契約)の効力、および書面上「売渡担保」と記載されている場合の契約の法的性質の認定が問題となる。
規範
当事者間において、債務者が弁済期日に債務を弁済しなかったときは、その弁済に代えて目的物の所有権を即時債権者に帰属させ、かつ当該物件を明け渡す旨を約した合意は、私的自治の原則に基づき、代物弁済予約としてその効力が認められる。書面上の文言のみにとらわれず、諸般の証拠に基づき当事者の真意を確定すべきである。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)に対し、本件建物を売渡担保に供した旨が記載された書面(甲第1号証)を提出していた。しかし、上告人が弁済期日に債務を完済しなかったため、被上告人が本件建物の所有権移転および明け渡しを求めた。上告人は、本件契約は売渡担保であり、清算手続(競売等)が必要である旨を主張して争った。
あてはめ
事実関係によれば、書面には「売渡担保」との記載があるものの、その他の証拠(甲第2号証、被上告人本人の供述等)を総合すれば、当事者の真意は、弁済がない場合に「本件建物の所有権を即時被上告人に帰属せしめ、かつ明け渡す」という点にあったと認められる。この認定は適法であり、単に書面の文言のみをもって、清算義務を伴う売渡担保であると断定することはできない。
結論
本件合意は代物弁済予約として有効であり、債務不履行により所有権は被上告人に帰属する。上告人が主張する競売等の清算手続を要するとの反論は、原審の認定しない事実に依拠するものであり、理由がない。
事件番号: 昭和43(オ)489 / 裁判年月日: 昭和44年10月16日 / 結論: 破棄差戻
一、不動産に関する代物弁済の予約につき請求権保全の仮登記が経由されている場合においては、該不動産の所有権が第三者に移転したときであつても、代物弁済予約権者は、予約の相手方に対して予約完結の意思表示をすべきである。 二、貸金債権担保のため同一不動産につき代物弁済の予約とともに抵当権の設定があり、その抵当権が転抵当に供され…
実務上の射程
本判決は、譲渡担保や代物弁済予約において、契約の形式的な名称よりも当事者の合理的意思解釈を優先する姿勢を示している。司法試験においては、民法482条に関連する代物弁済予約の有効性や、清算義務の有無を論じる際の認定手法として活用できる。ただし、その後の仮登記担保法制定や判例法理の展開により、現在では暴利行為該当性や清算金支払義務の構成に留意が必要である。
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和32(オ)1201 / 裁判年月日: 昭和34年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が元本の一部を弁済したとしても、当然に代物弁済予約を失効させる合意があったとは認められず、また予約完結権を行使し得る状況でこれを行使せず債務の履行を一部受けていたとしても、特段の事情がない限り、それは権利の放棄ではなく履行の猶予と解される。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)と債務者(上告…
事件番号: 昭和31(オ)464 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。 第1 事案の概要:債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金3…
事件番号: 昭和43(オ)343 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: その他
一、債権担保のため債務者所有の不動産につき代物弁済予約形式の契約を締結し、これを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしないため予約完結権を行使した場合であつても、目的不動産の換価処分または評価清算前に債務の弁済があつたときは、債務者に対し、右仮登記の抹消登記手続をしなけ…