判旨
売買契約が通謀虚偽表示により無効であるとの抗弁につき、虚偽表示に至った経緯や動機が主張と異なっていたとしても、虚偽表示自体の事実が認定されれば主張との齟齬や不意打ちとはいえず、弁論主義の違反は生じない。
問題の所在(論点)
通謀虚偽表示(民法94条1項)の抗弁において、虚偽表示に至った経緯や動機といった事情が当事者の主張と異なる態様で認定された場合、弁論主義違反あるいは理由不備・食い違い等の違法が生じるか。
規範
弁論主義の下では、判決の基礎となる事実は当事者の主張したものに限定されるが、主要事実(通謀虚偽表示の事実)について当事者間に争いがないか、あるいは証拠に基づき認定される限り、その背景となる間接的事実(虚偽表示に至った具体的な原因や動機)が主張と多少異なっても、判決に違法は生じない。
重要事実
上告人が被上告人に対し、売買を原因とする移転登記手続等を求めたのに対し、被上告人は本件売買が虚偽表示であり無効であると抗弁した。被上告人はその動機として「詐害行為取消権の行使を免れるため」等の経緯を主張していたが、原審(高等裁判所)はこれらの経緯の一部について被上告人の主張と異なる事実関係を認定しつつも、売買自体は虚偽表示であったと認定した。上告人は、主張しない事実を認定した違法等があるとして上告した。
あてはめ
被上告人の抗弁の要旨は、本件売買が虚偽表示に基づき無効であるという点に尽きる。これに対し、残存債権の存在や詐害行為取消を免れるためといった具体的な事情は、虚偽表示をなすに至った経緯(間接的事実)に過ぎない。原判決が証拠に基づき「虚偽表示である」という主要事実(抗弁事実)を認定した以上、その原因や縁由に関する判断が主張と一部異なったとしても、当事者の主張しない事実を判断したことにはならず、また重要な争点を判断しなかったことにもならない。したがって、認定事実に違法はないといえる。
結論
本件売買が虚偽表示であるという主要事実が認定されている以上、その動機等の付随的事情が主張と異なっていても判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
通謀虚偽表示における「通謀」や「虚偽の意思表示」が主要事実であり、その背後にある「なぜそのような虚偽表示をする必要があったか」という動機や事情は間接的事実(あるいは補助事実)に留まることを示した。要件事実論的な整理(94条1項の要件:①意思表示の存在、②相手方と通じて真意でないこと)において、動機の不一致が直ちに弁論主義違反を構成しないとする実務上の指針となる。
事件番号: 昭和24(オ)252 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定における証拠の取捨判断は事実審の裁量権の範囲に属し、適法に行われた判断を上告審で争うことはできない。賃貸借契約の成否という事実関係の認定が証拠に照らして肯認できる場合、上告は棄却されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、本件家屋について賃貸借契約が成立している旨を抗弁として主張した。…