判旨
判決原本に署名捺印した裁判官が、その後に転任して裁判官の身分を失った場合であっても、転任前に署名捺印を了していたときは、判決の構成に違法はない。また、消費貸借の主張に対し準消費貸借の成立を認めることは、当事者の主張の範囲内に属する。
問題の所在(論点)
1. 判決に関与した裁判官が言渡前に転任した場合、判決裁判所の構成は適法か。 2. 消費貸借の主張に対し、裁判所が準消費貸借の成立を認めることは、当事者の主張の範囲を超えるか。
規範
1. 判決は、口頭弁論に関与した裁判官の合議に基づき、判決原本に署名捺印することで成立する。署名捺印が転任(身分喪失)前になされていれば、言渡時に当該裁判官が在職していなくとも、法律に従って構成された裁判所による判決として適法である。 2. 訴訟物や請求の基礎が同一である限り、当事者が消費貸借を主張している場合に、裁判所が認定した事実に基づき準消費貸借として法律的評価を下すことは、処分権主義(民訴法246条)に反しない。
重要事実
上告人と訴外Dは共同で鉱山を経営していた。Dは被上告人から10万円を借りて上告人に交付し、当初はDの出資として扱われたが、後に上告人と被上告人の間で当該10万円を被上告人に返還する合意がなされた。原審(大阪高裁)は、裁判長稲田判事ら3名の合議により準消費貸借の成立を認めた。しかし、判決原本に署名した稲田判事は言渡前の昭和24年4月9日に家庭裁判所長へ転任しており、同16日の言渡は別の裁判官(石丸判事)が立ち会う形で行われた。
あてはめ
1. 記録上、言渡期日の指定までに合議が完了し原本作成準備に着手していたと推認される。判決原本には稲田判事の署名捺印がある以上、民訴法191条3項(現行208条)の職務不能による附記手続がとられていないことから、転任の日(4月9日)までに署名捺印を完了していたといえる。したがって、適法に構成された裁判所による判決である。言渡に別の裁判官が立ち会ったのは、作成済みの原本に基づく朗読にすぎず、合議への関与ではない。 2. 原審が確定した「金員返還の約束」という事実に法律を適用して準消費貸借と判断したことは、被上告人の消費貸借の主張の範囲内に属する法的評価であり、適法である。
結論
1. 判決裁判所の構成に違法はない。2. 消費貸借の主張に対し準消費貸借を認めることは、当事者の主張の範囲内として許容される。
実務上の射程
判決の成立時期と裁判官の交代に関する手続的適法性の基準を示す。また、消費貸借と準消費貸借の主張の峻別について、裁判所の法的評価の自由を認めた点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和24(オ)114 / 裁判年月日: 昭和25年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭消費貸借契約の成否について、書面の文言が特定の事実に合致しない場合であっても、作成の経緯や当事者の主観的状況等の具体的事実に基づき、当該書面の記載内容と異なる事実を認定することは許容される。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対し、10万円を手渡して金銭を貸し付けた(消費貸借)。その際、被上…