原稿により判決の言渡がなされた場合であつても、その当時判決原本たるべき文書の浄書を終えるばかりになつており、かつその当日中に判決原本が裁判所書記官に交付されたときは、右言渡は判決原本に基づいてなされたものと同視できるものと解すべきである。
判決原稿による言渡が判決原本に基づく言渡と同視された事例。
民訴法189条
判旨
判決言渡の際、判決原本は浄書未了であったが、主文・理由ともに完成し退庁時までに原本完成の十分な見込みがある状態で原稿に基づき言い渡された場合、特殊な事情の下として原本に基づき言い渡されたものと同視できる。
問題の所在(論点)
判決原本が物理的に完成していない状態で原稿に基づき行われた判決の言渡しが、原本に基づき言い渡すべきとする民事訴訟法(当時189条1項、現行252条)に違反し、判決手続の違法(同306条、現行312条2項5号)を構成するか。
規範
判決の言渡しは原本に基づいて行うのが原則であるが(民事訴訟法252条参照)、言渡しの時点で主文・理由の内容が既に確定しており、かつ当日中に原本が完成して書記官に交付されるなど、原本に基づき言い渡されたのと実質的に同視できる特殊な事情がある場合には、その言渡し手続は適法なものとして許容される。
重要事実
原審において、昭和34年6月18日午前10時の判決言渡時、判決原本は浄書の途中にあり未完成であったが、裁判官は内容が完成していた原稿に基づいて言い渡しを行った。判決原本は同日の退庁時までに完成する十分な見込みがあり、実際に同日中に完成して裁判所書記官補に交付されていたことが、判決正本および原本の記載から認められた。
あてはめ
本件では、言渡時に原本そのものは浄書中であったが、主文および理由の記載内容は既に完成し、言渡当日の退庁時までに原本が完成する確実な見込みがあった。実際に当日中に原本が完成し交付されていることから、言渡された内容は完成した原本と同一である。このような特殊な事情の下では、裁判の迅速を期するあまり適正への配慮に欠ける面はあるものの、実質的には原本に基づいた言渡しと同視できるため、手続上の違法はないと解される。
結論
原本が未完成であっても、内容が確定しており当日中に完成したという特殊な事情があれば、原本に基づいた言渡しと同視でき、判決手続に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
判決手続の適正を重視する少数意見(下飯坂判事)が存在することに注意が必要だが、本判決は実務上の便宜と迅速性を考慮し、事後的・実質的な不備の補完を認めたものである。答案上は、手続違背が主張される場面において「原本に基づいた言渡しと同視できる特殊な事情」の有無を検討する際の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文の表現に多少の不備があっても、文脈全体から合理的に解釈可能であり、証拠に基づく事実認定が適法であれば、判断遺脱等の違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決が「15万円(本件債務)」と判示した点について、判断遺脱や理由齟齬の違法があると主張して上告した。原判決が指していたのは、実際には…