判旨
金銭消費貸借契約の成否について、書面の文言が特定の事実に合致しない場合であっても、作成の経緯や当事者の主観的状況等の具体的事実に基づき、当該書面の記載内容と異なる事実を認定することは許容される。
問題の所在(論点)
金銭消費貸借の存否が争われる場面において、交付された書面の文言が貸付事実と一部矛盾する場合、裁判所はその文言に拘束されることなく、作成の経緯等の諸事情を考慮して書面の内容と異なる事実認定をなし得るか。
規範
契約の性質や成立の有無を判断するにあたっては、書面の記載内容(文言)のみならず、その作成に至る経緯、当事者の知識・経験、交付時の言動等の諸事情を総合的に考慮して、当事者の真意を探究すべきである。書面の記載が実態と異なる場合であっても、合理的な理由があるときは、書面の文言に拘束されず実質的な合意の内容に従って事実を認定できる。
重要事実
被上告人が上告人に対し、10万円を手渡して金銭を貸し付けた(消費貸借)。その際、被上告人は「数日中に返済されるべきものだから証文は不要」と述べたが、上告人が自ら進んで書面(甲第1号証)を作成し交付した。被上告人はその書面の内容を深く介意せず、渡されるままに受け取って持ち帰った。後にこの書面の記載内容が実際の貸付けの状況と一部符合しない点が問題となったが、原審は他の証拠と対照した上で消費貸借の成立を認めた。
あてはめ
本件では、被上告人が証文を求めていなかったにもかかわらず、上告人の側から進んで書面を作成・交付している。被上告人はその文面を精読せずに受け取っており、記載内容を確定的な合意として重視していなかったことが窺える。このような作成経緯に照らせば、書面の記載内容が一部不自然であっても、他の証拠に基づき消費貸借の事実を認定することは、事実認定の専権の範囲内として適法である。小切手が先日付で発行される等の商慣習があることも、認定を左右しない。
結論
書面の記載と異なる事実認定も、諸般の事情から合理的であれば許容される。原審が消費貸借と認めた事実に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
契約書の文言と当事者の主張が食い違う事案において、書面の「作成の経緯」や「受領者の認識(読んだかどうか)」を主張立証することで、書面の証拠力を弾劾する際の根拠として活用できる。特に、形式的に作成された書面が実態を反映していない場合の事実認定の枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和34(オ)1014 / 裁判年月日: 昭和35年6月2日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】処分証書の成立の真正について争いがある場合、作成の経緯や関連する印鑑証明書の不自然な点、証言の変遷等の諸事情を十分に解明せずに証拠能力や信憑性を認めることは、審理不尽・理由不備として許されない。 第1 事案の概要:上告人は、当初の10万円借入時に白紙委任状と印鑑証明書を交付したが、完済後もこれらを…