判旨
行政庁が買収計画への異議に対し法定期間内に決定を行わず、事実上計画から除外したとしても、正式な決定がない限り買収しないことが法律上確定したとはいえず、再度同一の買収計画を立てることは直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
行政庁が異議申立に対して法定期間内に何ら決定を行わず、事実上対象を除外した後に、再度同一の処分(買収計画)を行うことは許されるか。先行する異議決定の欠如が、後続の処分の効力に影響を及ぼすか。
規範
行政庁が法定の異議申立期間内に決定を行わないことは違法であるが、決定の形式によらずになされた事実上の除外行為のみでは、買収しない旨の意思決定が法律上確定したとは認められない。先行する異議申立に対する不作為が違法であっても、後続の処分自体に違法がなく、かつ当該処分に対しても救済手段が保障されている場合には、先行する不作為の当否を争う実益はない。
重要事実
上告人は、昭和22年3月になされた農地買収計画に対し異議を申し立てた。農地委員会は、この異議に対し法定期間内に正式な決定を行わないまま、事実上本件農地を買収計画から除外した。しかし、同年4月に委員会は同一の農地について再び同一の理由で買収計画を立てた。上告人は、一度事実上除外しながら再度買収計画を立てることは違法であるとして争った。
あてはめ
まず、委員会が法定期間内に決定を行わなかったことは法違反である。しかし、除外という事実行為のみでは異議を容認する等の意思決定がなされたとはいえず、法律上買収されないことが確定した根拠はない。また、不作為は意思決定の留保に過ぎない。本件農地は本来買収可能なものであり、2度目の買収計画自体に瑕疵はなく、かつ上告人はこれに対しても異議を申し立てる機会を与えられている。したがって、最初の異議に対する決定がなかったことを理由に、2度目の計画を違法とすることはできない。
結論
行政庁が先行する異議申立に対し決定を行わなかったとしても、後続の買収計画自体に違法がない限り、当該計画は適法である。最初の不作為の当否を争う訴えの実益はない。
事件番号: 昭和29(オ)256 / 裁判年月日: 昭和33年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、一旦定められた買収計画が異議により事実上取り消された場合、法定の買収指示請求がなくても、市町村農地委員会は都道府県農地委員会の指示や職権によって再度買収計画を策定することが可能である。 第1 事案の概要:上告人らが所有する農地について、法6条の2に基づ…
実務上の射程
行政上の不服申立に対する不作為が、後の再処分を禁止する効果(既判力や拘束力に類似する効果)を持つかを否定した事例。答案上は、先行手続の瑕疵が後行処分を当然に違法とするわけではないこと、及び「訴えの利益(争う実益)」の議論に関連して引用し得る。
事件番号: 昭和24(オ)14 / 裁判年月日: 昭和24年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消訴訟における出訴期間の起算点に関し、処分の有効・無効は原則として影響せず、処分があったことを知った日から期間が進行する。また、たとえ処分自体に違法の疑いがあっても、法定の不服申立期間を経過した後の提訴は不適法である。 第1 事案の概要:上告人らは、自作農創設特別措置法に基づく被上告委…
事件番号: 昭和29(オ)258 / 裁判年月日: 昭和31年3月2日 / 結論: 棄却
遡及買収指示手続に違法があつても、このため、右指示に基き定められた農地買収計画が違法となることはない。
事件番号: 昭和28(オ)451 / 裁判年月日: 昭和34年1月29日 / 結論: 棄却
同一土地につき二個の買収計画が並存することは相当でなく、両計画をともに取り消した上で新たに買収計画を定むべきであるとの理由で、町農業委員会の定めた農地買収計画を取り消す旨の訴願裁決があつた場合、町農業委員会が右趣旨に従い右土地につき再度買収計画を定めることは、訴願法第一六条に違反するものではない。
事件番号: 昭和25(オ)341 / 裁判年月日: 昭和27年4月18日 / 結論: 破棄差戻
行政事件訴訟特例法施行の日に農地買収計画に対する異議申立期間が満了し、当時の交通事情等により訴訟関係人らが同法の内容を知り得なかつた事情があるならば、同法施行後にかいても、右買収計画の取消を求める訴を提起するについて異議、訴願を経ない正当な事由があるものというべきである。