行政事件訴訟特例法施行の日に農地買収計画に対する異議申立期間が満了し、当時の交通事情等により訴訟関係人らが同法の内容を知り得なかつた事情があるならば、同法施行後にかいても、右買収計画の取消を求める訴を提起するについて異議、訴願を経ない正当な事由があるものというべきである。
農地買収計画の取消を求める訴について異議訴願を経ない正当な事のある一事例
自作農創設特別措置法7条,行政事件訴訟特例法2条
判旨
行政事件訴訟特例法2条に基づき、審査請求等の前置手続を経ないで訴えを提起することにつき「正当な事由」があるか否かは、法令の公布・施行の周知状況や、当時の交通・通信等の社会情勢を総合的に考慮して判断されるべきである。
問題の所在(論点)
行政事件訴訟特例法2条(現行の行政事件訴訟法8条1項但書に相当)にいう、不服申立ての手続を経ないで提起することにつき認められる「正当な事由」の存否。
規範
行政訴訟において審査請求等の前置手続を経るべきとされる場合であっても、法律(行政事件訴訟特例法2条)に規定される「正当な事由があるとき」に該当すれば、例外的に直ちに訴えを提起できる。この「正当な事由」とは、法令の改正等により手続要件が事後的に加重された場合において、当事者にその履行を期待することが客観的に困難な事情を指す。
重要事実
上告人は農地買収計画の取消しを求めて提訴したが、その直前に施行された行政事件訴訟特例法により、異議・訴願の手続前置が義務付けられていた。本件計画決定は昭和23年6月21日で、異議申立期間は同年7月1日に満了したが、同法が公布されたのも同日であった。さらに、当時は終戦直後の混乱期で、旭川地方では官報等の入手が数ヶ月遅れるのが常態であり、裁判所や訴訟関係人ですら同法の内容を把握していない状況であった。
事件番号: 昭和25(オ)113 / 裁判年月日: 昭和26年8月1日 / 結論: 棄却
一 自作農創設特別措置法第六条第五項の公告には、単に買収計画を定めた旨の記載があれば足り、買収すべき農地、買収時期、対価の記載がなければならないものではない。 二 地区農地委員会の設けられている場合には、自作農創設特別措置法第六条第五項の公告は、地区農地委員会の事務所の掲示場に掲示して行うべきである。 三 農地買収計画…
あてはめ
本件では、異議申立期間の満了日と同日に法が公布されており、同日のうちに内容を知って手続を履践することは相当困難であった。また、交通通信の混乱により地方での法令周知が著しく遅延していた事実に照らせば、新法の内容を不知のまま従前の手続に従い提訴したことはやむを得ないといえる。このような客観的状況下で前置手続を要求することは「不能を強いるもの」に等しく、正当な事由があるものと解される。
結論
上告人が異議・訴願の手続を経ないで本件訴訟を提起したことには正当な事由がある余地があるため、その存否を審理せずに不適法として却下した原判決は違法である。
実務上の射程
行政事件訴訟法8条1項但書(審査請求前置の例外)の「正当な理由」の解釈において、当事者の責めに帰すべからざる客観的事情や法令周知の不備を考慮する際の指針となる。もっとも、現代では通信環境が整備されているため、本判決のような極限的な状況(法令不知)が認められる射程は極めて限定的である点に注意を要する。
事件番号: 昭和25(オ)192 / 裁判年月日: 昭和26年9月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地売渡計画の公告は、売渡計画書の縦覧期間を定めた旨の記載があれば足り、売渡の相手方や対価等の詳細を記載する必要はなく、不服申立てを経ずに訴訟を提起できる「正当な事由」も認められない。 第1 事案の概要:上告人らは、B地区農地委員会が行った農地売渡計画の公告について、売渡の相手方や対価等の重要事項…
事件番号: 昭和24(オ)129 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁が買収計画への異議に対し法定期間内に決定を行わず、事実上計画から除外したとしても、正式な決定がない限り買収しないことが法律上確定したとはいえず、再度同一の買収計画を立てることは直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、昭和22年3月になされた農地買収計画に対し異議を申し立てた。農…
事件番号: 昭和26(オ)55 / 裁判年月日: 昭和26年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の事由に該当せず、かつ法令の解釈に関する重要な主張を含まない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人が提起した上告に対し、最高裁判所がその上告理由を検討したところ、当時の民事上告特例法に定められた上告受理の要件を満たしているか、…
事件番号: 昭和36(オ)947 / 裁判年月日: 昭和38年3月15日 / 結論: 棄却
被買収者が農地所在の村で農地委員の選挙権を行使した等の事実があつても、右買収基準時に教師として他村に転任しその学校住宅に家族とともに居住していたという事実関係のもとにおいては、その住所が当該農地の所在地にあつたと認めなければならないものではない。